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48 卵は戻らない ページ49

太宰治は記憶を辿る。


 其れは数日前。
 乗車中に突っ込んできた車により、大怪我を負った坂口安吾が入院している病院へ、見舞いに行った時の事。


 その病院の、そのスペース、
 坂口安吾の病室の隣、


 一際広い、病室があった。


 そしてその廊下は、甘い菓子の様な香りが微かに広がっていて。


「……………確定、か」


 綺麗な花束に、果物のバスケット。
 見舞いの品を持ち、勢い良く扉を開けた。


「ハァイ安吾!元気かい?」


 仏頂面でジト目の坂口。
 本当に大怪我だ。右脚は吊られているし、体中包帯だらけ。
 わぁお揃い、普通に嫌だけど。


 そして、まあまあ長めの会話をする。


 とりあえず云う事だけ云って、部屋を去ろうと扉を開けた太宰に、彼は眉一つ動かさず問うた。


「――何故か僕の席の緩衝囊だけ開かなかったんですが……理由をご存じありませんかねぇ?」


 その坂口の問いに、不敵に笑う太宰。


 と。


「わっ」


 廊下で、誰かが壁にぶつかって行った様だ。
 人々のざわめき、看護婦が幾人か走っていて、患者達は苦笑い、何処か特殊な空気。


「なんかこの病院、忙しい?」

「あぁ。また……隣の部屋の彼女が抜け出したんでしょう」

「また?……彼女?」


 眼鏡をくいっとあげる坂口。


「新米患者の私でも知っている、この病院周知の問題ですよ」

「ねぇお姉さん、何かあったの?」


 丁度通り掛かった、五十代の敏腕看護婦に声を掛けた太宰がきいたのは。


 またあの子抜け出してたのよ!
 一昨日からいると思ってたのに、布団の厚みは別のお布団だったわ!

 録音機に音まで入れて!
 全く、何時からいないのかしら!


 駆けていく看護婦に手を振り、太宰治は再び坂口の方へ向き直った。


 先程の、彼からの問い掛けは頭の隅に追いやって。

番宣 ―クロスプログラム―→←47 真昼の烏



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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 谷崎潤一郎 , 江戸川乱歩   
作品ジャンル:アニメ
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neko - 江戸川乱歩様、貴方には異能力が全く御座いません。サッパリです。 (2020年10月1日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - マカロニさん» マカロニ様、ご指摘ありがとうございます。早速プロローグにさせて頂きました。この様に切ない技量ですが、更新頑張りますので宜しくお願い致します! (2019年12月30日 11時) (レス) id: 51ec71086f (このIDを非表示/違反報告)
マカロニ(プロフ) - コメント失礼します。第一話のエピローグはプロローグの間違いではないでしょうか?(エピローグは終わりの時なので……)初コメントがこのような形ですみません。更新頑張って下さい。 (2019年12月30日 8時) (レス) id: 30ec427a94 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年12月22日 22時

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