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35 貴方で彼には私が秘密 ページ36

「え……」


 あの時。


 太宰治が樋口一葉のポケットに盗聴器を仕掛けたのを視て、


 あぁ、これは私は要らないなと判断した。


 だから彼らの方は放っておいて、
 違う世界を視にいったら。


 ナオミちゃんも。
 貴方も。


 あんな事に。


 他にも、
 他にも沢山。


 太宰治の入社試験の時も、
 敦君が芥川龍之介に拐かされた時も、


 他にも、
 他にも、
 他にも、
 他にも、


「…………」


 その涙は、拭われた。
 温かい手。


「敦君――虎を捕まえる時も」


 優しい声。
 とても安らぐ声。


「黒蜥蜴が探偵社に来襲した時も、
 列車強盗事件の時も」


 顔を上げる。


「船上の闘いの時も、君がいたから、ボクたちは作戦を立案出来て、事件は解決したンだよ」


 責めもせず、
 媚びもせず、
 誤魔化さず、


「失敗する事だッてあるかもしれないけど、社ではそンな事気にしていられないし……Aちゃんと比べたら、ボクなんて全然さ」


 只、肯定だけを、
 只、安心だけを
 くれる。


「だ、だから泣かないで?ボクも、悲しくなッちゃうから……それに、ボクも、ごめン」


 低頭して、云う。


「あの時、怪我をさせて、ごめンなさい」

「…………」


 あの時。
 かなり前の、話なのに。


 硝子かと思って向かった場所は壁に見えた幻影で。


 強く頭を打ったけれど、


 あれは、私が、逃げてしまっただけ、だから。


「…………」


 私より歳下だなんて、到底思えない包容力、そして優しさに。


「……………」

「あ、え?」


 谷崎の顔をしっかり固定し、


 Aは精一杯、
 初めて真っ直ぐに、素直に、口を動かした。



 も
 う

 い
 い



 あ
 り

 が


 と

 う



 と。


 声には出来ないけれど
 想いは、込めた。


 「……!ううん、い、いいンだよ、そんな、そんなの!」


 柔らかな、私の中の何かを溶かして行く様な笑顔で。


「…………」

「………………」


 見つめ合う。
 先に視線をズラしたのは、Aだけれど。


「さ、さあ、太宰さんの所へ行こうよ」


 Aはコクンと頷き、
 そして口元で人差し指を立てた。


「え?
 ――此方の世界に入れること、秘密なの……?
 ……うん、分かッたよ。
 ナオミにも、云わない」


 何時もの朗らかな笑みで、
 嬉しそうに、云う。


「ボクたちだけの、秘密だね」

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 谷崎潤一郎 , 江戸川乱歩   
作品ジャンル:アニメ
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neko - 江戸川乱歩様、貴方には異能力が全く御座いません。サッパリです。 (2020年10月1日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - マカロニさん» マカロニ様、ご指摘ありがとうございます。早速プロローグにさせて頂きました。この様に切ない技量ですが、更新頑張りますので宜しくお願い致します! (2019年12月30日 11時) (レス) id: 51ec71086f (このIDを非表示/違反報告)
マカロニ(プロフ) - コメント失礼します。第一話のエピローグはプロローグの間違いではないでしょうか?(エピローグは終わりの時なので……)初コメントがこのような形ですみません。更新頑張って下さい。 (2019年12月30日 8時) (レス) id: 30ec427a94 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年12月22日 22時

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