2 願いを叶える異能の少女は太宰治と恋をする【文スト】

45　落花流星の情 ページ5

異能を使って退かそうとしても、何の勢いなのか、全く離れない謎の生物。


　写真を撮っている場合ではないと、走っていく太宰を尻目に、飼育員らは中原の救出に精を出すが。


「ぶもっぶもっ」


　きゃーかわいー、
　なにこのこー
　すきすきー。


　ナッちゃんの、そんな感じの勢いにより、どうしたって、そこから動けない。


「好きという気持ちは止められないのだよ。じゃあねー！中也ー！」


「阿呆太宰死ねえええぇぇぇぇええ！」


　ただただ侘びしく、中原の叫びがこだまする部屋を後にし、

　太宰治は、やっと解放された顔で、彼女のいる場所を目指す。


　Aちゃんには水族館のショーを観てもらっていた。

　そして中也の帽子が上から落ちてきた事も確認できているはず。

　そんな彼女は我々は上の方にいると思考する。

　ショーの会場から、上の方へ行ける手段があるルートは。
　

「ふう」


　太宰治が、水族館を一望出来るバルコニーに出ると、そこには勿論、思っていた通り、意中の彼女がいた。


「Aちゃーん！」


　あれ。
　私、なんか、とってもるんるんしちゃってる。

　彼女が振り向く。


　ああ、見たかった笑顔。


「太宰のお兄さん！」


　ああ、聞きたかった声。


　私は夢中で駆け寄ったのだと思う。

　この後何が起きるか解っているのに、
　知らないふりをして。


　私の買った服を着て、
　私のプレゼントした髪飾りを付けて、

　私に微笑んでくれている。

　そんな彼女の持っている、私のあげたものではないものを見て。


「ちょっと、何でその帽子、そんな大事そうに持ってるの」

「あ、えと」

「こんなのはここに置いといてー」


　そこのアシカの銅像にポンッと中也の帽子を被せた。


　全く、私は何を中也の帽子に、苛立ちを覚えているのか。


「さて」


　改まったように、彼は云う。

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