2 願いを叶える異能の少女は太宰治と恋をする【文スト】

59　星は心の鏡 ページ19

「ど、どうでした？今回の私は！」


　ああ、


「いやあ、矢張りこの台詞が一番カッコイイでしょう！」


　励ましてくれているのかと。


「あ、お前って勿論、Aさんのことではなくてですね！」


　考えたら、嬉しさと、笑いが込み上げてきて、


「ふふっ」


　お腹を押さえて、


「うん、カッコいい、カッコいいよ。ここに、悪い人が、いるからね」


　くすくすと笑いながら、そのままAは顔を両手で押さえた。


　そうだよ、悪い人は、私。


　私は、異能を利用していただけなんだ。


　星降夜に、

　いなくなってほしいとか、
　何故今ないの？とか

　なんて、自分勝手な、愚かな人。
　悪い人だ。


「何を仰いますか！Aさんは、悪い人じゃないですよ！」

「………………」

「それとも、本当に、悪い人になりたいんですか？」

「ん……」


　そんな訳、ない。

　悪い人になったら、なんか、生まれて来た意味が、ない気がする。

　そんなこと、思いたくない。

　善い人に、なりたい。
　善い事を、したい。

　異能なんかなくても、
　私というだけでも、


　生きていきたい。


　生きたいんだよ。


　でも、もう、死んでるよね、私。


「…………っ」


　そうしたら、ぽろぽろと、涙が出てきた。


　それは、違う。
　それは、違うから。

　思ってもいないことを思うと、その反動で、耐えきれなくなって。


“全部、終わり。どうでも良くなっちゃった”


　違う、違うよ。

　どうでも良くない。
　終わりにしたくない。

　
　海の中に沈んでいくような、
　空から落ちていくような、
　でも痛みは無くて、
　愛する人と、ただただ死にゆく。


　この願いを、叶えたい。
　太宰さんに、会いたい。


　ここから、出たい。
　太宰さんに会いたい。


　善い事を、したい。


「……Aさん」


　辻村はAの側に座り、頭を撫でた。
　そして。


「ここに来る途中、坂口先輩に渡されたんです、貴女にと」


　カサっと、音がした。
　目を開けると、一枚の封筒。


「………」


　恐る恐る受け取り、開く。
　中身は、三つ折りの用紙で。


「Aさんが本当に、人の為に、この街の為に、頑張ってくれるならと」


　その紙を、
　ゆっくりと開く。


「その為の、贈り物です」


　そこには、
　かなりの達筆で、


　こう、書かれていた。



「……武装探偵社 入社説明会のご案内……？」


　日付は、明日のお昼だった。

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