2 願いを叶える異能の少女は太宰治と恋をする【文スト】

63　汝の星を愛せよ ページ23

「何ですか？職業体験って」

「え？あの、学校の授業で、社会に出る為に、実際に働いてる場に行く……」


　まさかの質問返しをされたので、しどろもどろに答えると。


「都会の学校って、そんなことするんですか？やっぱり都会って凄い！」


　という反応が返ってきた。

　え、えぇ？


「今……働いてるの？」

「はい！」

「え、あの、何歳で」

「14です！」


　衝撃が、凄かった。
　自分よりも歳下の少年が、学校にも通わず、働いている。

　全く知らない、世界。


「え、あの、お父さんとお母さんは」

「田舎にいますよ？」

「……出稼ぎってやつですか？」

「僕は社長に勧誘されてこの街にやってきました！」


　？？？
　会話は、噛み合っているのだろうか？


　田舎から出てきてまで、
　家族と離れてまで、

　彼は働く事を決めた。
　ここで生きる事を決めた。


　どういった思いで、ここまで来て、
　今ここに、いるのだろうか。


「大変……ですね」


　としか、いえない。
　こんな若い内から苦労してるなんて、さぞ何かに恨みとか辛みとか……それしか方法がなかったのであろうか。


　生きる為だろうか。


　然し、
　生きる為でも、

　苦しむくらいなら、
　悲しむくらいなら――

　――もっと、別の生き方を……


「そんなことないですよ！」


　あっけらかんと。
　Aの、同情と悲観の言葉を吹き飛ばす様に、少年は太陽の様な微笑みを咲かせた。
　

「僕、こっちに来て毎日楽しいんです！街の人たちも、社の皆も優しくて、牛丼は美味しいですし！」


　手に持ったピッチフォークを立て、


「だから大丈夫です」


　空を見上げ、


「大変なことがあっても、苦しいことがあっても、その後に、嬉しい事や楽しい事がきっと来ます」


　祈るように、


「だから」


　両手を握り合わせた。


「僕達は生きることをやめられないんです」


「……………………」


　ぼくたちは生きることをやめられない。


　生きることを。

　苦しむことを。
　悲しむことを。

　嬉しいことを。
　怒ることを。
　哀しむことを。
　楽しむことを。


　生きることを、
　やめられない。


　そうだなあ。
　そうだった。

64　言葉は星の使い→←62　針の穴から星を覗く

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す