2 願いを叶える異能の少女は太宰治と恋をする【文スト】

61　星の手も借りたい ページ21

「あの、何かお困りですか？」


　てってって、とその人の所に走って行き、聞いた。
　理由は、困っていそうだったから、それだけ。


「え？あァ、ちょっとね、妾の飼い猫が何処かに行っちまったンだよ」


　溜息をつく女性。
　え、あ、それは大変だ！


「ど、どんな猫ですか？」

「茶と黒の三毛猫さ」

「ミケちゃんですね！」


　その周りと、反対側の通り、車の下、確かに、鼠一匹見当たらない。


「あ、もしかしたら」


　Aは言う。


「この中とか……？」


　この中とは。
　その前が集合場所となっていた、


　横浜市立動物園。


「……有り得るねェ」


　女の人は、顎に手を当てた。黒い手袋を付けている。カッコいいとAは思った。

　そして、何も考えずに、その気持ちだけで、動いた。


「私、中見てきます！」

「え？でも……」

「大丈夫です！平日の学生料金は安いですから！」


　まだ1時間位時間あるし。
　入場券位、買って貰おう。
　学生証、あるかなあ？


　車の中の深月ちゃんに伝えると。

　駄目って言われると思ったけど、笑顔でOKしてくれた。
　そして、付いてくると思ったのに、


「行ってらっしゃい、頑張ってください」


　とだけ言われた。


　あれ？
　私、特一級危険異能者じゃなかった？

　一人で、行動していいの？
　一人で、人助けしていいの？


　動物園の中なら監視カメラもあるし、入口はここ一つだけだし……
　深月ちゃんがOKと云うなら、いいのかな？


　まあ、困っている人がいるなら、助けないとだよね。


　人が困っているのは嫌だ。
　人が悲しんでいるのは駄目だ。

　きっとあの人の、笑った顔は素敵だと思う！


　そしてお駄賃を貰い、先程の女の人の元へ。


「猫ちゃん、なんてお名前ですか？」

「ん？えーっと、あ、そう、ミィちゃんだよ。アンタ今時、他人の為に動こうなんて、珍しいねェ」

「そうですか？」


　そうなの？
　普通じゃない？

　まだ時間もあるし。

　うん。


「まあ、じゃあ、頼ンだ。妾は此処いらで探してる。待ってるよ」

「はい！行って参ります！」


　たかたかと、Aは入口の方へ走って行った。
　そんな彼女の背中を見つめながら、腰に手を当て、与謝野晶子は思案する。


　ふぅん、可愛い子だね。
　太宰のやつも、やるじゃァないか。


　さて、どうなることやら。


　時刻は正午。
　約束の時間は1時間後。


　石Aの、
　波乱の飼い猫探しが、始まる。

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