3 文豪グルメ 短編集【文スト】

末広鐵腸　　西瓜【ミルクティと芥川様Req.】 ページ47

それは、萎びていない、ツルの周りが凹んでおり、縞模様がデコボコでくっきりしている、


　ごろっと頭上に落ちてきた大玉。


「お」


　その声が発された直後、


　ばりしゃッ
　……びたびたびた


　部屋を染める薄い赤、広がる夏の香り。


「…………」

「…………」


　やべぇ……
　素手で西瓜割りよった……


　いや確かに人体でも割れるけど、美事な季節外れの、西瓜割り。


「有難う……？」

「礼には及ばぬ」


　佇む隕石切りの男。
　いやまあ、石よりは柔らかいけど。


「……形の残っているものは貰っていいか」

「ああ、はいどうぞ」


　ボウルを渡した。捨てるくらいなら呉れということだろうか。

　同時進行で床を片付けて、


　洗って、


「何故冬に西瓜なのだ」

「今は何でも揃うからね」


　並べて、

　
「苺だって、ほんとは春のものなのに冬に多く出回ってるんだから、特に驚かないでしょう」


　そんな事より早く食いたいと思考している末広。


「鐵腸さんは、長形小玉だよね。瓜坊って感じ」

「俺と猪に、何の関係がある」


　猪突猛進な所だよとAは心中で突っ込む。


　目の前に皿を置くと、シャクシャク食べ始めた。
　勿論タバスコは奪って。


「乾燥しやすい冬は喉を潤すために、瑞々しい西瓜はかなり最適な水分補給です」

「うむ。丁度喉が渇いていた」


　部屋の中も温かくしてるし。


「あとねー、塩分過多になりやすい、運動不足になりやすい冬こそ、カリウムやシトルリンが多く含有されているからね」

「俺は塩分を過多に摂取していない、運動も不足していない」

「ああうん、ほんとだね、そうだね」


　鰻と西瓜、天麩羅と西瓜の悪過ぎる食べ合わせをしても、ぴんぴんしてそう。


「まあ、毎晩呑み会に付き合っていれば、自ずと塩分過多、運動不足になるだろうな」

「おっとぉ」


　種も皮も全て平らげた彼は。


「冷えた」


　無表情で震えている。
　まあ、西瓜食べればね。


「………」


　その手で無言でくっついてくるな。
　タオルで包み込み、拭うと、


「知っているか……西瓜の種を食べると……背中から、芽が生えて、くるんだぞ……」


　Aを枕にして、寝た。
　本当に、気儘な猟犬である。


　種ね。南瓜とかの種みたいに、食べても大丈夫だけどね。


「……ていうか、鐵腸さん……食べて、たし……」


　同じように。
　互いに身体を温め合うように、


　重なった手と、
　寝息の音。

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