3 文豪グルメ 短編集【文スト】

旧双黒　　　グラタン【リアビーバ-様Req.】 ページ35

「んー、白ですかね」

「Aもか」

「焦げの風味と樽の薫りは相性抜群なので……シャンパーニュみたいな炭酸系でも」

「ま、万能に行くならセッコじゃね」

「あぁなるほど。流石中也君」


「あれぇ？こんな昼下がりに職質ですか？それとも補導？」


　陽の当たるテーブルの上、風に乗ってやってきた声に、中原の顔は歪んだ。


「マフィアと政府の人間が密会とは、他所に知られれば大事だね！」

「じゃァ帰れ」


　笑顔の太宰は彼を黙殺し、そのままAの隣に座る。


「やぁAさん。安吾は元気？」

「安吾君か。最近見てない……明日会いに行ってみるか、ふふっ」


　瑞々しい果実の様に輝く笑顔、二つの黒はほんのり赤く染まった。


「で、何してるの？」

「治君と一緒」

「今日は善きサボり日和！」

「手前らと一緒にすンな」


　にこにこと太宰がAの手を握ろうとするが、中原がそれを制止する様手を払う。


「二人して葡萄酒の話してたんだから、共犯みた」
「治君はさ、シーフードグラタンにはどの葡萄酒合わせる？」

「……また唐突に、何時ものかい」


　好きなモノを語るいつもの顔を見て、太宰は優しく笑んだ。


「法蓮草とか南瓜とか野菜系グラタンはピノ・グリで決まったんだけど」


　瞬きの数が深刻な中原も、彼女を意識せずにはいられないらしい。


「まぁたAさんの全勝が掛かってるのね」

「そうなんだよー。あ、因みに、トマト系グラタンはプリミティーヴォになりました。
　ジューシーでまろやかな果実味のコクが、トマトの酸味によく合うんだ」

「素敵ねぇ」


　Aの髪をふわふわ撫でる。
　気持ち良さそうに微睡むそんな横顔も、私は。

　そして、お前も。


「オレ、魚介系はアルヴァリーニョから変えねェからな」


　あァ。
　太宰と好みが被るなんざ、滅びへの道だぜ。


「そこはペコリーノだよ……樽発酵で熟成させた地葡萄マジでヤバいから。そっちは酸味が喧嘩する」

「際立たない奴にすりゃァいいんだよ」


　バチバチに、楽しそうな彼等を見て、


「じゃあ実際、呑みに行って確かめようではないか！中也は来なくていいよ！」


　Aの手を握り、颯爽と歩き始めた太宰を、
　勿論追い掛ける中原。


「待てや青鯖ァ！手前が来なくていいンだよ！」

「全部試すなら、胃袋は多い方がいいよねぇ」


　のんびりした声に、
　寄り添う黒達。


　白か、赤か、黒か、


　何方の色に、染まるのか――

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