3 文豪グルメ 短編集【文スト】

中原中也　　ホットドッグ ページ13

「博物館の学芸員」

「外れ」

「あ、法廷の絵を描く人！」

「違う」

「んー、七十万の道は遠い……」


　いつも通り洋机にAは突っ伏し、中原は珈琲を一口含んだ。


　毎週恒例、中原中也の今の職業を当てるクイズは、✕ばかりが重なっていく。


「こンな下らねー事で賞金懸けてんの、オレら位だぜ？」

「楽しいねぇ」


　Aの笑顔は、日の光で眩しいにも関わらず心地良い。

　ずっと、見つめていたい程に。


「そういえば。取れたよ二輪免許」

「お、すげーじゃねェか！」


　中原は自身の事の様に喜ぶ。
　小柄なAが二輪の運転をする等憂慮に堪えなかったが、やっと安心して。


「400CCまで乗れますっ」

「手前、あれ起こせンのかよ」

「だから無事卒業ですよ」

「頑張ッたな！」


　頭を撫でてやると、くすぐったいと手を捕まえてきて、どうましょうね、みたいな顔をする。

　可愛過ぎる。


「今度走りに行くか？」

「うん、やってみたかった……隣に乗せるの」

「隣……？」


　二輪に誰かを乗せるなら、
　後ろでは？


「中也君は膝にビーグルを乗せて、片手にホットドッグを持って乗ってね！」

「……………」


　ッて、サイドカーかよ！
　ほぼ四輪じゃねェか！


「何の映画の見過ぎだ？」

「何の映画かは忘れた」

「おいおい」


　他愛もない話の出来る、
　気を抜く事が出来る、


　この時だけは、
　オレは、只のオレだ

　と思っている。


「ホットドッグの話してたらお腹空いた」

「此処、あるんじゃね？」


　横で、うきうきとメニューを開くAを見つめて。


　手前は、本当のオレを知らないが、
　知らないままでいい。


　ただそこに居て、

　笑っていて呉れればそれでいい。


「なんと」

「ん？」

「ホットドッグって、語源はダックスフンドらしい……諸説あるけど」

「マジで犬」

「中也君、ビーグルとダックスフンド、何方がいい……？」

「そこかよ」


　かはっと彼は笑った。


　この時間は、いつか終わりが来る。
　それでも、この時だけは、


　Aだけのオレで、
　オレだけのAと、

　いたいから。


「にしても、最初が二人乗りでいーのかよ」


　聞くと。


「最初は、好きな人を隣に乗せて走りたかったからね」


　答えた。


「チーズか……サルサもいいな……七十万円あれば全部食べれる……」


　続いて欲しいが、ここにある。


　そんな穏やかな、
　ある青年の昼下がり。

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