3 文豪グルメ 短編集【文スト】

芥川龍之介　豆腐ハンバーグ【月華様req.】 ページ12

「うわ……」

「……」


　芥川の腕をきゅっと掴み、Aの顔は青ざめていく。

　肩や腰を両手で押さえては溜息を付くその様を、彼は微動だにせず見据えた。


「……朝ご飯ちゃんと食べてる？ていうか、今日お昼何食べた？」

「本日食事は摂っておりません」

「だからだ！細過ぎ！」


　Aの叫喚を前に、澄ました顔で常套句。


「僕如きに贅肉等無用の長物、特に任務への支障はありませぬ」

「又云う！肉、肉を食べさせないと！そうだ、出来たばかりのハンバーグの店に行こう！」


　腕をぐいぐい引っ張るが、
　突如、あーっ！と立ち止まる。


「君が食べてたらこっちも食べたくなるじゃんか！」

「……」

「肉汁たっぷりのハンバーグなんて……何もしてなくても最近体重増えたのに！ええ、何、この不平等！」


　特に見掛けに変わりはないが、其れは何もしていないからでは？
　と思いながら、その百面相を見つめる芥川だったが、


「あ！」


　然し再度歩き始めたAにまた足幅を合わせる。


「そうだ、豆腐ハンバーグにすればいいんだ、実質カロリーゼロ！に、近い！」

「…………」

「ハンバーグ専門店ならある筈！……おろしポン酢でさっぱりと……なめことオクラをトッピングして……」

「……」

「ん？君は牛だよ？肉つけろ？」

「…………」

「わっ」


　芥川が立ち止まったので、
　Aも立ち止まる。

　惰性で、2人の体はくっついた。


「どした？」

「豆腐」


　ぼそりと云う。


「ハンバーグに豆腐とは、どう云う了見でしょうか」


　その黒い瞳には、僅かな吃驚の色。


「…………。色々あるんだよ、ハンバーグにも」


　ハンバーグに豆腐で、微妙に頭のこんがらがっている芥川。
　食べればわかると、Aは気にせず歩き出す。


「もっと色んなモノに興味持ってみなよね。

　体重とか、食とか、
　最近、銀の事も気にしてる？

　はあー、豆乳系とか辛いソースの豆腐ハンバーグ、あるかなあ」

「…………」


　互いの呼吸音を聞きながら。


「僕が気に留めるもの」

「ん？」

　
　瞬きをして、
　その続きを聞けば、


「貴方の事」


　と、


「貴方の事は、全て知りたい」


　静かに連ねた。


「……」

「…………」


　いつの間にか、
　先導するのは芥川で。


「貴方が其れなら、僕も同じモノがいい」


　咳をした。


　其れは一体、どう云う了見？


　ふわふわとしたその気持ち、
　ゆっくり互いに、飲み込んだ。

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