3 文豪グルメ 短編集【文スト】

中島敦　　　栗金団 ページ1

「その栗」

「はい！」

「あとそこの梔子」

「梔子？」


　高い所の商品も楽々に取ってくれるし、
　重い荷物も持ってくれるし、


「梔子の実を入れると綺麗な黄金色になるんだよ」

「そうなんですね！」

「クワイとかも梔子入れるかな」

「クワイってなんですか？！」


　反応が一々新鮮、
　敦君には色々教えてあげたくなってしまう。


「栗金団はね……その色から黄金に例えて、金運アップの縁起が」

「金運！」


　食い気味の敦。
　何時になっても、貪欲さん。


　甘栗の入っている瓶をもう一つ取ると、上目遣いで、


「も、もう一瓶、如何ですか？」

「ふふ」


　籠を指差した。
　とても嬉しそうに入れる彼。

　きっと、
　お正月の殆どが初めてなのだろう。


「あの薩摩芋も取ってきて」

「はい！」


　ワンちゃんみたいで可愛いなあ。
　購い物終わったら、撫でくり回してあげよう。


「戻りました。薩摩芋、どうするんですか？」

「栗金団に入れる」

「え、ど、どういうことですか？！薩摩芋なのに？！」


　栗だけの物もあるし、
　裏漉しした薩摩芋と合わせる物もある。


　何方も綺麗なことに、かわりはない。


　籠を覗いた敦君は、
　お節の食材、沢山の甘栗を見て、


「こんなにたくさん……ありがとうございます、済みません」

「大丈夫、栗金団は余ったら、パウンドケーキにするから」

「ええー！す、凄い！どうやるんですか？」


　愛しい彼と、
　少ない今年も、来年も。


「勝負運に、金運。巡ってくるといいね」

「は、はい！任せてください！」


　ギュッと、手を掴まれる。


「Aさんがいれば、
　全部勝ちます！
　頑張って働けます！」


　溌剌と。


「なので、此れからも末永く、宜しくお願い致します！」

「……………」


　恥ずかしそうに視線をずらしたAに気が付き、


　敦が目出度く紅くなるまで、
　後五秒。

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