太宰治 鯛焼き【アオイ様Req.】 ページ6
「大漁っ大漁♪」
Aが茶包を抱えて診療室に入ると、矢張り其処には少年が居た。
「あれ?森医師は?」
「森さんは会合か何かでどっか行っちゃった。この僕を放って」
色のない声に、闇を宿す大きな瞳の持ち主は、椅子に座って背の所に顎を置いている。
「治君は何で油売ってるの」
「怪我しちゃった。手当して、Aせんせー」
やれやれと茶包をデスクに置き、薬や包帯を出して彼と対面する。
この頃の太宰の傷は、大概が心中未遂ついでの小さなものばかり。
「流石森さんの補佐、A医師は包帯を巻くのがほんとお上手」
「何百人と巻いてるからね」
「この後、擂鉢街に行けって云われたんだけど、面倒だなぁ」
ボヤきながらもちょこんと座るあどけない少年だが、その雰囲気は既にこの世を諦観しており、
ああ、ここに来る患者はこういう人多いよなあなんて思い出していると。
「ねえ、いつも持ってる、それなぁに?」
先刻の茶包を指差す太宰。
「ん、あぁ。任務頑張るなら、あげるよ」
そう云って、
その包の中からほかほかと湯気をあげて顔を出したのは鯛。の形を模した菓子。
「……死んだ目をしてる」
「あぁ、君とそっくりだ」
蛸焼きや烏賊焼と違い、何故これだけは菓子なのか。
太宰はその目をとんとん触った後、その背中に齧り付く。
「へぇ、治君は背鰭から食べる派か。甘えん坊なんだね」
「何それ?何か意味あるの?」
「一時の遊びだよ」
もぬもぬと口の中に吸い込まれて行く鯛焼き。
Aも尻尾から食べ始める。
カリッとして、
モチっとして、
大粒の餡が溢れそう。
「そこから食べるのは、器用な人とか?」
「いや、どうだったっけ。んー、ちなみに森医師はお腹から召し上がるし、久作は真ん中引き千切って尻尾から食べるよ。広津さんもそうだったかな」
そう云ってクルリと向きをかえ、机に向かう。
あぁ、僕の事診断書に記しているのかなと、
徐に立ち上がった太宰は、
Aの耳に優しく齧り付いた。
「ひゃやぁ!?……ん、な、何してる?!」
「いや、A医師は、何処から食べようかなって」
怜悧な視線。
小柄な痩身。
二人きりの診療室。
全然子供だと、思っていたのに。
稀に見ない小悪魔の様な微笑みで、
太宰治は少し熱く、囁いた。
「――ねぇせんせー、
どこから、たべてほしい?
それとも僕を、
たべてみる?」
太宰治&芥川龍之介 蟹クリームコロッケ【月華様Req.】→←太宰治 蜜柑【ハイド様Req.】
80人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
午(プロフ) - 体の90%がラムネさん» 体の90%がラムネ様、ご感想ありがとうございます!また三期でお待ちしております、宜しくお願い致します!更新頑張ってください! (2019年12月21日 23時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
午(プロフ) - 闇川幽鬼さん» 闇川幽鬼様、単品で織田作登場です!ありがとうございます! (2019年12月21日 23時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
体の90%がラムネ - 初コメです!めっちゃ良きでした!!突然ですが、リクエストしたいですが…。ダメでしたね。すいません!また募集している時にいきます!更新待ってます!(自分も更新しろよと思う今日この頃) (2019年12月21日 13時) (レス) id: 8dd45af6f4 (このIDを非表示/違反報告)
闇川幽鬼 - 作之助様登場!!(*゚∀゚*)嬉しいです!(*^_^*) (2019年12月21日 0時) (レス) id: 56867ea8da (このIDを非表示/違反報告)
午(プロフ) - 月瀬さん» 月瀬様、リクエストありがとうございます!只今からのリクエストは無効とします。ゆっくりで申し訳ありませんが、宜しくお願い致します! (2019年12月15日 11時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:午 | 作成日時:2019年8月25日 17時