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織田作之助 湯豆腐 ページ36

Aがその小さな手に息をかけているのを見て、ゴツゴツした大きな両手が重なった。
 嬉しそうに、ふにゃりと笑う。


「珍しいねェ」

「そうか?」


 二人、雪の中を歩く。他には誰もいない、暗闇だけど仄かに白い世界。


「作之助さん、今晩は何を食べたいですか?」

「か」
「カレェ以外で」

「む」


 クスクス笑うA。
 織田は虚空を眺め、頭の思考回路を回す。


 大きく強い風。
 髪は簡単に舞い上がり、マフラーの隙間から凍える寒さか入ってくる。


「………」


 無言で、
 盾になり、抱き締めるように守ってくれる、織田。

 優しい。
 温かい。


 Aは思い付く。


「こンな寒い日は、高津湯豆腐にしましょう」

「ええっと……なんだっけな」


 鍋で煮た絹ごし豆腐に、
 醤油や出汁のきいた葛の餡をかけ、辛子をのせた心身あたたまる一品。


「ああ、あれか」

「子供達も皆好きだし」


 帰りを待っている孤児たち、彼等の事を想うと、更に心がポカポカする。


「辛子じゃなくて、山葵もいいな」

「酒購って帰るか」

「家にあるのでいいよ……早く帰ろー?」


 握る力の強まった手と手。
 目を瞬かせる織田。


「……豆腐と云えば……豆腐の角で人は死ぬのだろうか」

「何でそう云う話?」

「……様々な心中方法を試すのが趣味の奴が居てな」

「ほんと珍しい、作之助さんがご友人の話をなさるなんて」


 本当に嬉しそうに笑うA。
 その度心に、じんわりと来るものは何だろう。


「……湯豆腐なら、橘堂でも行くか?」

「そんなお金はありません」


 ザッザッっと雪を踏みしめる。


「年の瀬なんだから、任務が入らなければ、次のお前の休みにでも行けばいい」


 今日は結構感情的に喋るなァと思いながら、未だAは食い下がる。
 

「でも子供達が」


 が、一瞬で。


「いや、行くのはお前と俺だけだ」

「………」


 ポカンと、見つめられた。
 どうもやはり、こういう事は慣れない。


 太宰に云われた通り、Aの喜びそうな事をしてみたが……


「まぁ、たまには、善いだろう?」


 織田は、ふっと笑った。
 寒い寒い冬の夜、目の前はほぼ真っ暗だが、


 見える未来はあったかい。


「その前に――高津湯豆腐、だな。矢張り酒を購い足そう……あと」


 捨てられた子犬の様な目に。


「……はいはい、カレーもね」


 甘いAと。


 輝いているこれからを、


 共に、歩む。

蘭堂    牛肉赤葡萄酒煮込【花丸様Req.】→←立原道造  鯛焼き



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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 短編集 , 甘い   
作品ジャンル:アニメ
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(プロフ) - 体の90%がラムネさん» 体の90%がラムネ様、ご感想ありがとうございます!また三期でお待ちしております、宜しくお願い致します!更新頑張ってください! (2019年12月21日 23時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 闇川幽鬼さん» 闇川幽鬼様、単品で織田作登場です!ありがとうございます! (2019年12月21日 23時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
体の90%がラムネ - 初コメです!めっちゃ良きでした!!突然ですが、リクエストしたいですが…。ダメでしたね。すいません!また募集している時にいきます!更新待ってます!(自分も更新しろよと思う今日この頃) (2019年12月21日 13時) (レス) id: 8dd45af6f4 (このIDを非表示/違反報告)
闇川幽鬼 - 作之助様登場!!(*゚∀゚*)嬉しいです!(*^_^*) (2019年12月21日 0時) (レス) id: 56867ea8da (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 月瀬さん» 月瀬様、リクエストありがとうございます!只今からのリクエストは無効とします。ゆっくりで申し訳ありませんが、宜しくお願い致します! (2019年12月15日 11時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年8月25日 17時

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