治癒の異能を持つ少女はポートマフィアに愛される【文スト】

37　眩む、街 ページ38

ルーシー・モード・モンゴメリが部屋の明かりを点けた。


　眩しい。

　Aは完全に覚醒する。
　天蓋のあるベッドの上に、彼女はいた。


　ジョン・スタインベックに拉致され、どれくらい眠っていたのか分からない。
　身体の拘束は、今は何もない。


「団長がお呼びよ、早く支度なさい」


　つっけんどんとした、不機嫌な女の子。
　この子は女給さんだろうか、赤毛にキャップをのせ、白いエプロンを身に着けている。


「お…はようございます……貴女は……」

「…………。……ルーシーよ」

「ルーシーさん……ここは、ジョンさんは」

「彼なら今は、ラヴクラフトと箱根に行っているわ。というかそんな事いいから、早く立ちなさいよ」


　ぐいっと無理矢理立ち上がらされたが、Aはちょっとまだぼーっとする。


「しょうがないわね」


　ため息をついたルーシーはAの腕を支え、そして一緒にその部屋を出た。









　広い廊下を歩く。
　天井も高い。


　拘束されていないということは、Aにはここから逃げ出す手段がないと思われているから。


　うん、実際に今はない。


　まだこの建物の構造とか分からないし。
　仮にここで体術で戦っても、敵の数も分からないし。


　矢張り、歌を歌うことしか出来ない、
　怪我を治せるだけの、私。


　任務を与えられない理由が、分かった気がする。


　窓だ。
　光が漏れている。


　目の前を通ると、


「！ ……え？！」


　窓に張り付いた。
　ルーシーの手が離れる。


　青い、景色だった。
　白い、雲も見える。

　見たことのある、街が見えた。


「そ、空の上！？」


　こんな、高いビルの上に、いるの？


「そうよ。出航は明日とかだと思うわ」

「出航？」

「教えてあげる。ここは白鯨の中、有り体に云えば、飛行船」

「飛行船？！」

「貴方のお仲間が、船を破壊したからよ」


　初めて見た。
　飛行機ではない、空の上の乗り物。


「す、凄い……」


　誘拐されているのに、普通に感嘆してしまった。

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