治癒の異能を持つ少女はポートマフィアに愛される【文スト】

26　理由 ページ27

「へー」


　乱歩お兄ちゃんはラムネを開けた。然程興味なさそうだった。


「まあいいや。また武装探偵社に遊びにおいでよ」

「ぶそうたんていしゃ？」

「うん。僕の働いてる所。福沢さんが社長なんだよ」

「おー社長さんに……凄いです！
　流石、福沢師匠！」


　福沢諭吉。
　私の体術の師匠。


　短い期間だったけれど、小さかった私に、恐らく暇潰しに体術を教えてくれた。
　一度も勝ったことない位、福沢さんはとっても強い。


　乱歩お兄ちゃんは私の稽古の時に、偶々出会った。
　たまにクイズを出したり、お菓子をくれたり、遊んでくれて。


「国木田ってのが社長に体術習ってるんだけど、だから、Aちゃんの弟弟子だね」

「弟弟子……！素敵な響き！いつかお手合わせ願いたいです」


　出会ったことないけど、きっと素敵な人なんだろうな、国木田さん！


「じゃあ僕はもう行くけど、そういえばAちゃん、まだ異能力は使っているみたいだね」

「え？は、はい、結構」

「ふーん、そう」


　そうして、空いたラムネ瓶を店先のゴミ箱に捨て、私の横を通り過ぎ、駄菓子屋を後にする。


「あの異能、疲れちゃうでしょ？無闇に使い過ぎちゃ駄目だよ」


　空けた左手でひらひらと手を振った。


「昔さ、十時間歌った時、一日ずーっと目覚めなくて、僕、死ぬかと思ったんだからね」


　少し、切なさを帯びながら、


「ばいばーい」


　乱歩お兄ちゃんは歩いていった。


「あ、えっと、ばいばーい？」


　乱歩お兄ちゃんはそこから振り返らなかった。


　……ああ、そうか。


　昔、最長で歌って治したの――
　――福沢師匠だったな。


　その時は子どもだったから、後で2日は寝ちゃったんだよね。


　目覚めた時、あのお気楽ご気楽な乱歩お兄ちゃんが泣いてて、吃驚したっけか。

　
　大事な人を泣かせないように。


　そう、云いたかったのかな？


　うん、そうだよね。
　その為に私、ポートマフィアに来たんだよね。


　Aは会計を済ませると、ポートマフィアのみんなの元へ帰って行った。

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