治癒の異能を持つ少女はポートマフィアに愛される【文スト】

44　虎の子 ページ45

「治癒の……」


　少し驚いた声。
　何か、希望を見つけた様な。


　しかし。


「ジョンが捕らえたポートマフィアの子だよ！」


　マークがその一言を言った瞬間、突然、扉があるのに、何かゾクッとするものを感じた。


「……ポートマフィアの施しは受けません。例外もありません。立ち去りなさい」

「あ、私……」

「喋るなと云っている！」


　ビクッとするA。


　治癒を、否定されたのは初めてであったから。
　というより、ポートマフィアの否定だが。


　いつも、
　治癒するといえば、
　皆、笑顔になった。

　傷や怪我は治すもの。


　そう思っていた。


　凄い怪我なのに……それを治されるのが嫌なくらい、ポートマフィアを憎んでいる。


　そんな人が、この扉の奥にいる。


「ありゃあ……しょうがないねえ。ごめんね」

「いえ……」


　この前の花見の会で、治癒ではなく、
　ただ単に私の歌が聴きたいと云ってくれた。


　揺らぐ福音は、本の在処を知る異能で。


　治癒の異能でも、

　治癒されるという行為と
　ただ、傷を治癒するのと、
　私が歌うのは、

　一緒なのに、
　違う訳で。


「揺らぐ福音のことが――分からない」


　その時、突然、警報音が鳴り響いた。


“虎人の少年が逃げた！ 空対空カノン用意！”


　え、何？！
　Aは壁にもたれた。


“職人マーク・トウェインは速やかに銃座に移動、標的を落とせ”


「お！ 僕の出番が来たようだね！」


　マークの笑顔は先程よりも意気軒昂に輝き出し、


「じゃあね、日本のレディ！ ゲームの後に、僕の『トウェイン大活躍日記』の話を聞かせてあげる！」


　ウインクして、高らかに走っていってしまった。
　他にも、様々な乗組員たちが、忙しく廊下を右往左往している。


　りかんと、がなんの事か分からないけれど、少年が逃げたって……。


　もう一人の、捕まっていた人かな？


　月下の虎の異能を持つ人。


　その人は、何かを、誰かを人質にされなかったのだろうか。


　この船を飛び出してまで、何かすべき事があるのだろうか。


　私の。


「私の、すべき事は――」
　

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