治癒の異能を持つ少女はポートマフィアに愛される【文スト】

24　翡翠色 ページ25

「あった駄菓子屋！ わー懐かしいのいっぱい！」


　Aは無邪気に店内を見渡した。
　縦横無尽に並べられた駄菓子の数々、何人かの子どもが楽しそうに菓子を選んでいる。


　あ、この飴玉瓶買っとこう。
　最近大怪我の人が多いから、しっかり補充しておきたい。
　んんー、チョコレートはビターしかない……。


　うんうん悩んでいると、


「わぁ！」


　後ろで子どもが転けた。
　泣き出しそうな顔をする子ども。
　Aはすぐにその子を抱き上げる。


「あ、私、そのお菓子のCM好き！」


　子どもの握り締めていたお菓子のCMソングを彼女は口ずさむ。
　お菓子のCMソングは、子ども相手に大変使いやすい。

　転んだ時に出来た、子どもの両手の擦り傷は、スーっと治っていった。


「あれ……おてて、いたくない……おねえちゃん、ありがとう！」

「どういたしましてー、ばいばーい」


　走っていく子どもに手を振る。両親に連れられて、子どもは楽しそうだ。

　
　良かった……。


　そうして、会計に行こうと思ったその時。


「――――もしかして君、……Aちゃん？」


「え？」


　青年の声。
　後ろを振り向いた。


　ハンチング帽。
　両手に抱えた駄菓子の山とラムネ瓶。
　糸目。
　跳ねた黒髪。


　その顔には見覚えがあった。


「……乱歩お兄ちゃん？」


　当たったのか、彼は嬉しそうに、いつもは閉じている片目をうっすらと開けた。

　それはやっぱり、翡翠色の――。


　江戸川乱歩。
　そして、もう一人、体術の師匠(せんせい)。


　十年前の記憶が、一致する……

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