37 千の星より子は宝 ページ38
石Aが、誰かに手を掴まれた気がして、そちらを向くと、小さな男の子がいた。
柔らかく、ぽきゅっとした手。
くりくりした丸いおめめに、ふわふわの髪、着ている洋服は上等だが、身体中絆創膏や包帯だらけ。
とても、やんちゃな子の様だ。
そしてどことなく、太宰さんに似ている。
「おねーちゃん、まま、どこー?」
迷子だ、紛う事無き。
周りを見渡す。
ステージでは何頭ものイルカが宙を舞い、観客こそ疎らなものの、歓声が飛び交う中、それらしい大人は見当たらない。
ぎゅーっと引っ付いてきながら、
「ねー、だーくん、お腹空いたよー?」
だ、だーくん。
更に太宰さんに似てきた。
「あいすたべたいの、だーくん」
周りの歓声にも負けないくらいの勢いで。
「あいすたべたいの、いっしょうのおねがいだから、ねー?おねがい」
一生のお願い。
一生のお願いなんて、どういう意味なのか。
一生のお願いなんて、結局、人生で何回も使う。
何故なら、その願いは必ず叶うか、決して叶わないことを知っているから。
人はそういう時に、一生のお願いをする。
つまるところ、それは一生のお願いではないのだ。
その時だけは、本気で。
でも本当は、ダメ元で。
でも、本当に、
必ず叶う願いも、
決して叶わない願いも、
一生のお願いで叶うとしたら。
人の想いだけで叶うとしたら。
それはもう、同等ではない、特別。
人生を賭けた、
生命を賭した、
特別な、一番の願い。
恐らく、太宰さんと迎える最期こそが、私の一生のお願いに、相応しいと思う。
駄目だよ、だーくん。
人生まだまだこれから、楽しい事がいっぱいあるんだから。
「一生じゃなくていいよ。そのまま、アイスが食べたいで、いいんだよ」
頭を撫でてあげた。
気持ちが良いのか、目を瞑り、にこにこ微笑んだ。
ひえー、可愛い。
280人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
午(プロフ) - 凛音さん» 凛音様、コメントありがとうございます!これからも頑張ります! (2019年7月13日 20時) (レス) id: b0368434d0 (このIDを非表示/違反報告)
凛音(プロフ) - いつも読んでいます!とても面白い!私は文ストの中では中也と太宰が好きなんです、これからも頑張ってください! (2019年7月13日 14時) (レス) id: 54808a52f2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:午 | 作成日時:2019年6月30日 0時