【文スト】虫愛づる花嫁【小栗虫太郎】

10　汝は人なりや？ ページ10

「…………」



　使用人の少女ーーー
　ーーー異能名『耽美なる咀嚼』。




「…………」


　小栗はペンを持つと、その辺りの紙にサラサラと文字を書いた。其れを彼女に見せる。


「読めるか？」

「んー、見た事ある文字ですけど……読めません」

「では異能を使え」

「え？…………は、はーい」


　確かに元来、紙は植物である。


　他にも、エディブルペーパーと云う食べられる紙も存在するが……あれは澱粉で出来ている。


「…………」


　これは一寸した、実験ーーーー


「っん」


　Aは口を開けると、上品に齧った。
　虫のように、小さな口で食んでいる。


「…………」


　美しい所作だが、食べているのは、紙だ。


　ごくん


「はえー」


　反応する。
　理解しているらしい。


「いや、最初から、長いですよー」


　困った様に笑いながら、云う。


「事件を起こした悪い人ーーつまり犯人は、物語の最初の方に出ていないと、ってことですね？


『犯人は物語の始めに登場していなければならない』


　ですかー？」

「ほう」

「登場人物の中に絶対いる、って事なんですねー。パッと出て来た人じゃ、駄目なんですねー」


　一言一句違わずに、
　真逆アイツ以外に、
　ノックスの十戒について会話する日が来ようとは。


　凡常な人間では知り得ない言葉だ。


「…………フッ」


　その様に言葉に起こせるのに、
　何故、文字を知らぬ。


　だが。


「異能力、か…………」


　そう、一言一句違わずに、
　初めて見た文章を記憶した。


　食べた文字の意味を理解し、


　其れ等を全て、記憶する。

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