【文スト】虫愛づる花嫁【小栗虫太郎】

06　くろきもじたち ページ6

「わー、いっぱい書いてるー」


　丸められた原稿用紙たちは、
　綺麗な床の上に十程捨てられていた。


　くしゃくしゃと開いて、見る。


「インクがいっぱい」


　その文字は、
　その小説は？


　何だかわざわざ難しい書き方をしているかのように感じた。
　説明も長く、知識満載といったような。


「紙魚目さんの書く小説は、人を選びそうだなー」


　御友達、一人位しかいなさそー。


　原稿用紙たちを一枚ずつ、丁寧に真っ直ぐ伸ばして、見る。


「あ、これは面白い」


　三枚目位の原稿用紙。
　同じ文字が幾つか連なっている、きっとこれがポイントなんだろうなー。


「どういう意味だろー」


　そして、Aは徐ろに。



　ビリッ、ばりっ



　そのクシャクシャの原稿用紙を縦に裂き、その言葉の部分を二糎程破って、口元に持って行き、


　パリッと音を立て、


　食べた。


「…………しょっぱい」


　しょっぱかった。


　そして、


　成程、そういう意味かー、
　という感想が生まれた。


　他にも気になった文字があったので、再度紙を破ろうとして、


「おい小娘、何をしている」


　声のした方を向くと、
　機嫌の悪そうな彼と目が合う。


　鋭い眼光。
　握り締めた原稿用紙。
　落ちた毛布。


　イラついているのが、瞬時に分かった。

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