【文スト】虫愛づる花嫁【小栗虫太郎】

48　虫愛づる花 ページ48

目を覚ます。


　幾つか視た、短い夢。
　いや、一つの長い夢だったのか？


　瞳を瞬かせて、
　内容を思い出そうとするけれど、



　“私に文字は必要ないみたい”



　というのは覚えているけれど。


　何で、そんな事思ったのだったっけ。




　ーーーー忘れて、しまったみたい。




「どういう......意味だろー......」




　呟くと、
　右手に強い力。


　視線を動かす。


　彼がいた。



「あ......せんせー。


　……また、ですか……」



　自然に零れる笑み。
　瞳から零れた其れは、私の頬へ。


　やっぱり、最初に会った時と、同じ様に。



「泣き虫さんですねー」



　忘れられない、あの、初めての味。



「A......」



　美しい其の名前を、呼んだ。



「A......A」



　花が咲いた。



「はい、虫太郎せんせー」



　ぽたぽたと落ちるあたたかい雨に、
　生きているという感触に、



「……しょっぱい」



　嬉しそうに、笑った。












　永遠と思われた眠りから目が覚めた彼女。
　永遠と思われた苦痛から解き放たれた彼。



　思い浮かぶ、その意味は、



　ーーーー意味はこれから、知れば良い。



　ーーーー私には、貴方が必要不可欠なのだ。



　この感情に、
　名前をつけるとしたら？



　謎はーーーー深まるばかり。



　でも、



　面白い事間違い無しっ。



　あなたへの想いを、
　舌に乗せて、
　咀嚼して、
　自分のモノにして、



　伝えたら、



　貴方は、
　きっと......



　きっと続きを、教えてくれる。




　そう其れは、




　私に希望や夢を与えてくれる、
　私という存在を確立してくれる、
　私を本当の『A』にしてくれる、



　私の、貴方の、愛し方を教えてくれる、




　神秘的で、




　摩訶不思議な、




　耽美なる、宵の調べーーーー

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