【文スト】虫愛づる花嫁【小栗虫太郎】

47　君がいる場所 ページ47

「御久し振りです」


　小栗虫太郎が気が付くと、目の前には坂口安吾がいた。


「.......」

「......外、か」

「はい」


　こうも冷静でいるという事は、江戸川乱歩辺りに云われてやって来たのであろう。
　また先回りされたと思うと、腸が煮え繰り返るな。


「私は、どれ位」

「半日も掛かってないと思います」


　現実に、戻ってきた。


　小説よりも奇妙な世界へ。


　もう二度と戻ろうと、
　もう二度と生きようと思わなかった、


　彼女のいる場所。




　ゴロゴロゴロ。




　何か近付いてくる音がする。


　音のする扉の向こう、


　廊下が垣間見える。
　そこを通った、



　ストレッチャーに横たわる、A......



「......何処に連れて行く？」


　冷静に坂口を見据えた。
　今すぐ立ち上がって、追い掛けたい衝動を抑えながら。


「..........」


　矢張り駄目だ、政府なんて、
　Aの異能が狙いか？何故バレた？


　私のように、
　彼女の人生も滅茶苦茶にする気か？


　許さん...っ...


「.....................」


　いや、そんな訳は無い。


「ご安心を。彼女は我々が責任を持って、直属の病院へ連れて行きます」

「……病院」


　彼等は関係の無い事を、
　銀行から脱獄した時に、
　この屋敷を訪れる前に、


　武装探偵社と確認したのだから。


　手渡される、
　手術についての資料。


「ええ、Aさんには然るべき手術を受けて頂きます」


　そして、


　彼女の異能については、
　自分しか知らないということを。


「医師の腕についても、問題ありません。家主からの許可も......」


　俺が出来る事は、何も無いという事をーーーー


「............」


　本当に？


　俺に出来る事は、ないのだろうか？


　資料に目を移した。



　彼女を、救う為に、
　小栗虫太郎にしか、出来ない事はーーーー



「......いつ頃、終わるのだ」



　いつ、彼女に会えるのか。



　告げられた期間は、他人にとっては短く感じるが、
　彼にとっては長い期間で。



「分かった」



　思い立った。



　その、彼女を待つ時間を使って、



　彼はーーーー



















　電話が鳴った。


“頼みがある”


　出ると、久方振りの、けれど酷く落ち着いた声。


　嗚呼......乱歩君の云った通りである
　と、端末の持ち主は感嘆した。


「どうしたであるか、虫太郎君」


　そして紡がれる。


　彼の想いと、そしてーーーー

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