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45 残っていた記憶 ページ45

逃げて、
 逃げて、
 逃げた先。


 もう自分が何処から来たのか、


 何者なのかも、分からない。


 あれから
 色んな人に保護されて
 色んな所に誘拐されて
 色んな体に改造されて


 でもとりあえず、
 今ーーーー海を越えた地にいる。


 知らない言葉を喋る人達が、
 知らない色の瞳の人達しかいない。


 誰も彼女を見ない。


 涙さえ出てこない。


「……………………」


 その街角で、虚ろな瞳を
 地に落とす少女。


 もう死んでもいいのに、


 何か死ねない。


 それは彼女が、
 死に方を知らないから。
 生き方を知らないから。


 逃げ方しか、知らないから?


 いや、何も、分からない。


 どうしようも、出来ない……





 とてててっ





「………………?」


 然し、


 突如、


 彼女の視界に入ったのは、


 何か、
 動物だろうか?
 

 ぱっちりした黒い瞳に、
 縞縞のしっぽ、
 鼠色のもふもふ、


「ぁわ、っ」


 生物が首にじゃれて来る。
 擽ったい。


 久し振りに出した声にも吃驚した。


「…………」


 その生物が何かに気付き、彼女の膝の上で立ち上がる。


 彼女も顔を上げた。


 男が、
 目の前にしゃがんでいる。


 ジッと力無く見つめるその視線が不思議と恐怖にならず、男は言葉を発した。



「……What’s the matter?……Ah、いや。日本語がいい……だ、大丈夫であるか?」



 彼女には、何を云っているのか、分からないけど。

 
 彼女は、
 本当の名前も、
 本当の言葉も、


 何もかも忘れていたけれど。


 そのもじゃもじゃした髪を見て、




 毛虫みたい




 その思いだけ、
 強く胸を熱くさせた。


 深淵に光が、微かに灯った。

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(プロフ) - 尤莉さん» 尤莉様、素晴らしいご感想ありがとうございます! 虫クン何しても愛おしいですよね〜! 更新頑張りますので、応援宜しくお願い致します! (2023年4月25日 22時) (レス) id: 26aa10f063 (このIDを非表示/違反報告)
尤莉(プロフ) - 文章も丁寧で読みやすくて、すごく面白いです…!虫クンの反応が可愛くて仕方がないです…こんな作品を書ける午様を尊敬します…!更新頑張ってください、応援しています…! (2023年4月25日 21時) (レス) id: fc1333ebd7 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - うえむらせさん» うえむらせ様、ご感想ありがとうございました! 虫クンの小説が増えるといいですね〜! 更新は頑張ります! 応援宜しくお願い致します! (2023年4月6日 22時) (レス) id: 26aa10f063 (このIDを非表示/違反報告)
うえむらせ - はじめまして!最近虫くんにハマっているのですが、虫くんの小説が少ないので毎回更新を楽しみにさせていただいております。これからも応援しているので、更新頑張ってくださると嬉しいです! (2023年4月6日 22時) (レス) @page23 id: ec28fead31 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - セプンイレプンいい気分〜さん» セプンイレプンいい気分〜様、ご感想ありがとうございました! 虫クンの布教活動と同じ位面白くして行けるように頑張ります! 応援ありがとうございます〜! (2023年2月8日 21時) (レス) id: 0e7339a9e9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2022年12月28日 23時

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