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31 彼女と秘密 ページ31

脱衣場に置いてあった浴衣に着替え、月を見上げる。
 彼女は何時も下ろしている髪を結い上げ、籠から菓子を取り出していた。


「平和か!」


 流石は休息を取る用として拵えられた本。敵も居らねば罪も罰も無い、ゆるっとした時間だけが続いていく。
 Aは入浴中も、ウトウトしていた位だ。


 いや、殺人事件が、起きているんだがな?


 覚めなくてよい、夢の様。


「いーじゃないですか。はい、せんせ」

「もごぁ」


 口に突っ込まれた甘いもふもふ。
 加須底羅だった。
 美味。


「いかがですか?」

「…………」


 無言で二口目を食べると、彼女は破顔する。
 魔法瓶から茶を淹れるAを見ながら、視界の隅の月が、とても綺麗だと思った。

 
「ねえ先生」


 心地の良い声。


「最初に読む小説は、どんな本がいいでしょうか」


 醒めたくない夢。


「本当は虫太郎先生の小説がいいですけど……矢張り推理小説ですか?主様の本がいいですか?其れ共、昔……」

「いや、好きにすればいいだろう」


 謎を解かなければ、目覚め無い。


「だってーーーー小説は、どんな自分にだってなれるって、昔、聞いたので……ちゃんと、選ばないと、ですよね?」


 差し出される茶からは湯気が立つ。
 彼女の指先に触れた。


「何だ?君は何か……なりたいものでもあるのか?」

「………………」


 もっと彼女に触れたいと、


 先刻の様にいじめてみたいと、


 肩を優しく包み、
 そっと近付こうとして、


「あ」

「え」


 Aが、手を伸ばす。
 彼の左耳後ろに触れた。


「……っ」


 高鳴る鼓動。


「センセー、失礼します」


 近付く美しい顔立ち。
 キラキラ光る瞳、艶やかな唇、


「はい取れた」


 取れた?
 塵芥か?


 その拳を広げる。


「ほら、可愛い子がいましたー。
 蠅取蜘蛛」


 目の前、Aの小さな掌で、ひょこひょこ動く小さな生命体を見て、



 その後の記憶は、無くなった。

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(プロフ) - 尤莉さん» 尤莉様、素晴らしいご感想ありがとうございます! 虫クン何しても愛おしいですよね〜! 更新頑張りますので、応援宜しくお願い致します! (2023年4月25日 22時) (レス) id: 26aa10f063 (このIDを非表示/違反報告)
尤莉(プロフ) - 文章も丁寧で読みやすくて、すごく面白いです…!虫クンの反応が可愛くて仕方がないです…こんな作品を書ける午様を尊敬します…!更新頑張ってください、応援しています…! (2023年4月25日 21時) (レス) id: fc1333ebd7 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - うえむらせさん» うえむらせ様、ご感想ありがとうございました! 虫クンの小説が増えるといいですね〜! 更新は頑張ります! 応援宜しくお願い致します! (2023年4月6日 22時) (レス) id: 26aa10f063 (このIDを非表示/違反報告)
うえむらせ - はじめまして!最近虫くんにハマっているのですが、虫くんの小説が少ないので毎回更新を楽しみにさせていただいております。これからも応援しているので、更新頑張ってくださると嬉しいです! (2023年4月6日 22時) (レス) @page23 id: ec28fead31 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - セプンイレプンいい気分〜さん» セプンイレプンいい気分〜様、ご感想ありがとうございました! 虫クンの布教活動と同じ位面白くして行けるように頑張ります! 応援ありがとうございます〜! (2023年2月8日 21時) (レス) id: 0e7339a9e9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2022年12月28日 23時

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