19 幾らでも ページ19
「お待たせしましたー」
その密室を、何の前触れも無く解き放つ者。
その侵入者に、
不思議と苛立ちは沸かなかった。
違う感情が、あった。
のんびりとワゴンを押して、白磁の皿にのった夜食と、珈琲の香り。
「あ。好き嫌いとかアレルギーはありますか？」
「……案ずるな」
小栗は心を落ち着かせる。
Aは本棚の近くにあった小さなテーブルと小さな椅子を、其処にあった原稿用紙やペンを退かしーーーー準備は整ったらしい。
「余り物で申し訳ありませんが……本を読みながらでもお召し上がりになれますよ。和食の方が宜しかったですか？」
瑞々しいレタスと鮮やかなトマト、
そして少々厚切りのハム。
ふわふわの卵が挟まれたサンドウィッチ。
ふむ。
この豪邸で出されるには少々大衆的。
然し此処に着いてから何も食べていなかったからか、空腹感が掻き立てられた。
「結構」
「はーい」
本を置く。
彼処での食事がランクアップされた様だ。
ふわり。
手の中で壊れそうだと感じ、危うく口で受け止める。
実際そんなことは無い。
広がる濃厚な黄身と角切りの白身、控えめなブラックペッパー、仄かなバターとマスタード。
獄中食と比べずとも、その気品漂う雰囲気は食材の良さだと理解する。
「………………」
にこにこと。
サンドウィッチを携えた小栗を見つめるA。
「……何か？」
「せんせー、文字教えてくださいよー」
「…………」
やる気が凄過ぎる。
どれだけ本が読みたいのだ。
未だ幾らでも、時間はあるだろうに。
若いのだから。
よく見ろ！
俺は晩餐中だぞ！
「……とりあえず君はこれを見て基礎を学び給え。後で読んでやる」
其処の本棚にあった、
恐らくこの館の主が過去に読んだ書物。
異国人だからこそ、この様なモノもあるのだろう。
Aに渡した本の名はーーーー
『はじめてのひらがな』
「あ、これもしかして平仮名ですか？単純な線で書かれた文字は平仮名ですよね？」
「…………因みにこれは漢字だ」
原稿用紙に『一』という漢字を見せた。
Aは今日一、素っ頓狂な顔をした。
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午(プロフ) - 尤莉さん» 尤莉様、素晴らしいご感想ありがとうございます！ 虫クン何しても愛おしいですよね〜！ 更新頑張りますので、応援宜しくお願い致します！ (2023年4月25日 22時) (
レス) id: 26aa10f063 (このIDを非表示/違反報告)
尤莉(プロフ) - 文章も丁寧で読みやすくて、すごく面白いです…！虫クンの反応が可愛くて仕方がないです…こんな作品を書ける午様を尊敬します…！更新頑張ってください、応援しています…！ (2023年4月25日 21時) (レス) id: fc1333ebd7 (このIDを非表示/違反報告)
午(プロフ) - うえむらせさん» うえむらせ様、ご感想ありがとうございました！ 虫クンの小説が増えるといいですね〜！ 更新は頑張ります！ 応援宜しくお願い致します！ (2023年4月6日 22時) (レス) id: 26aa10f063 (このIDを非表示/違反報告)
うえむらせ - はじめまして！最近虫くんにハマっているのですが、虫くんの小説が少ないので毎回更新を楽しみにさせていただいております。これからも応援しているので、更新頑張ってくださると嬉しいです！ (2023年4月6日 22時) (レス) @page23 id: ec28fead31 (このIDを非表示/違反報告)
午(プロフ) - セプンイレプンいい気分〜さん» セプンイレプンいい気分〜様、ご感想ありがとうございました！ 虫クンの布教活動と同じ位面白くして行けるように頑張ります！ 応援ありがとうございます〜！ (2023年2月8日 21時) (レス) id: 0e7339a9e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：午 | 作成日時：2022年12月28日 23時
