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07 瞳 ページ7

「え?あ……済み、済みません!つ、つい!」


 何がつい、なのか。


「丁度いい長さだなあって考えていた事がつい……ごめんなさい、もう呼びません」


 何だそれ。


「別に構わん」

「え」


 彼女が驚くと同時に、ふわりと薫った。


 注文されたカレェ。
 大皿の中央に輪切りの煮卵がのったライスが敷かれ、そこを挟んで二種のカレェがなみなみと。
 

 赤い方を食べるとトマトの酸味、
 緑の方を食べると菠薐草の苦味。


 美味い。
 美味いが。


 ……どっちも、甘い。


「店員、タバスコはあるか」


 お持ちしますと店の奥に向かった店員を共に目で追う。
 そしてテーブルの上に置かれたのはサルサソースだった。


「…………」


 丁度善い塩梅になったらしい。


 無表情な彼だが、
 なんだかとても、喜々としている様で。


「カレェがお好きなんですね、その……織田作さんは」

「Aは嫌いか?」

「いえいえ!カレェが嫌いな日本人等いないでしょう!」


 それは何と大袈裟な。
 そうかもしれないが、そうでは無いかもしれない様な。


「…………」


 織田は、


 ふっと笑った。


「!」


 目が合って、Aは体温の上昇を察知する。

 このままでは思考が停止してしまいそう、そう思ったのか、その真っ白い頁を開いて。


「お、ぉう、で、で、織田作さん。どうです?良かったらお礼に、何か書きます?」

「このカレェで……いや。先ほど礼は云っただろう」

「あーっと」


 いやでも。
 命を助けて頂いたのに。


「…………」


 食べ終わったのか、ごくごくと水を飲んでいる織田。


 もう食べ終わったのか。


 見つめていたら、もう終わっていた。


「それにしても分厚い本だな」

「あ、そうですか?」


 これ、分厚いのか。
 片手で持てる本は薄いと思っていた。


 まあ中身にもよるが、
 人それぞれ、物の価値は違う。


 これが、織田作さんにとっての厚みなのだろう。


「ですよねぇ。いやあ、これくらい私もすぐ書けたら良かったんですが」

「…………」


 なので適当に、相槌を打った心算だったのに。


「中々筆が動かないんですよねぇ」

「……」

「出版社にも、版の機械を止めて貰っているのに……迷惑ばかりで」


「……Aーーお前、小説家なのか?」


 なので何の気なしに、
 織田は云った。

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 織田作之助 , 太宰治   
作品ジャンル:アニメ
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(プロフ) - 怜さん» 怜様、ご感想ありがとうございます!お優しいお言葉で、泣きそうでございます。これからも頑張ります! (2022年1月31日 20時) (レス) @page45 id: 05323f7eaa (このIDを非表示/違反報告)
- 場面を想像させる様な綺麗で幻想的な文に、しっかり作りこまれた物語。今まで読んだ織田作の夢小説の中で1番好きです。これからも頑張って下さい。 (2022年1月31日 1時) (レス) @page45 id: 64384c94d7 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 柊 琥珀さん» 柊 琥珀様、ご感想ありがとうございます.......! 嬉しい.......! (2022年1月9日 0時) (レス) @page42 id: 4dcd31a7db (このIDを非表示/違反報告)
柊 琥珀(プロフ) - 書き方が好みだ……。 (2022年1月8日 17時) (レス) id: 17f9b038b0 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - Asukaさん» Asuka様、ありがとうございます!めっちゃ頑張って書きます! (2021年8月24日 20時) (レス) id: 4dcd31a7db (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2021年6月27日 0時

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