織田作之助と真っ白な頁の波に漂う【文スト】

44　空 ページ44

「..............」


　彼女の、息を呑む声が聞こえた。


　と、同時に、
　空が、白んできた。


　闇が、消えていく。


　夜明けだ。


　だから、眩しかった。


　海は照らされ、
　白い波の中、


　二人はただただ、揺れていた。


「というか」


　織田は続ける。


「あの本、未だ借りてないぞ」

「..........あ、そうでした。ごめんなさい」


　そこで初めて、Aは目が覚めた。
　はっきりと、世界を見た。


　空が明るい。


　とても、綺麗。


「世界って、広いですよね」


　知ってた筈なのに。


　知らなかった。


　全部、本にしたいくらいに。
　全部、本に、物語に出来たら。


「とっても素敵だと、思いませんか？」


　波の音、海鳥の声。


　二人しか居ない様なその世界で、


「あぁ……まぁ、幾らか、な.......」


　初めて二人は、視線を交わした。


　瞳からは涙が溢れているのに、
　彼女は心から嬉しそうに笑っていた。


「..............」

「波ですよ、涙じゃなくて」





　悲しみは無い。
　闇も無い。


　太陽が辺りを優しく染めて、



　眩しい。



　眩しいけど、
　二人でなら。


　光に溶け込んで、
　互いが見えなくなっても、


　繋いだ手と心は、きっと離れないからーーーー。






　それは新たに刻まれた、
　たった一つの願い。


　それは新たに生まれた、
　たった一つの物語。


　それは、新たに紡がれる、


　小説家になりたかった彼と、


　小説家をやめたかった彼女の、


　彼らだけに開かれた........
　......真っ白な頁と、


　そしてーーーー

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