織田作之助と真っ白な頁の波に漂う【文スト】

26　羽織り ページ26

「あ」


　気が付けば。


　Aに触れていた奴等が走り去る背中が見えた。


　何時の間に、手を出してしまったらしい。


「…………」


　然しあの感覚は。


　数年前の、あの殺気立った感覚は、覚えている。


　覚えていた。


　踵を返し、彼女の元へ向かう。


「A、大丈夫か」


　細い肩を揺らした。
　掛けられた織田のジャケットがゆらゆら揺れる。


　彼女がその瞳をゆっくり開けると、一筋の滴が落ちて。


「ぉだ……さ」

「A」


　A。
　名を、呼んでくれる。


　助けて、くれる。


　また、助けて貰ったのに。


　あぁ。
　可笑しいな。


「A？」


　私、違うのにな。


　ヒロインじゃ、ないのにな。


　でも、良かった。
　怖いの、もうない。


「……ぁ」


　織田作さんの手、あったかい。
　織田作さんの声、あったかい。


　少しだけ、


　少しだけ。


「…………」


　ほっとした様に、


「…………」

「………………………」


　織田に身体を預けて、
　すうすうと寝息を立て始めた彼女を見て。


「それでいい」


　あぁ、よかったと。


「…………A」


　おやすみ、と。


　彼は彼女を、
　優しく抱き締めた。

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