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16 しおり ページ16

「「明日の夜は用事があ、え?」」


 そこまでぴったり声が合った。
 そして目線も合う。


「わぁ、偶然ですね」

「あぁ」


 互いに笑みが零れた。


 何とも心地好い空間。


 Aは白い頁を捲りながら、
 織田は黒いイカスミカレーを一口。


 風味豊かな輪切りの烏賊を筆頭に、コク深いシーフード、トマトの旨みとスパイスの香りが、身体を震わせる。


「お仕事ですか?」

「そんな所だ」

「はー、夜分までお疲れ様です」


 織田がAの事を詳細に聞かないから、
 Aも織田の事を詳細に聞かない。


 別に知らなくても、問題ない。


 こうやって、
 会えるだけでも、俺たちは。


「私もね、仕事なんですよ」


 然し今日は違う。


 Aから、話が来た。
 四方山話ではない、彼女についての話。


「…………」


 いつもと、胸の高鳴りが違う。


「そうか」


 スプーンを置くと。


「Aも、夜遅くまで、偉いな」

「ひょっ」


 頭上の柔らかな感触。
 大きく優しい手の温かさ。


 織田作さん、何、して、


「…………」


 Aが固まっていると、気付いた織田は彼女の頭から手を下げた。


「すまん。何時もの癖で」


 いつもの?


 一体、それはどういう意味かしら。


「ああ、ありますあります。私も座った瞬間見えないペンを持ってたりとか」


 一寸違うかもしれない、
 でもそれでいい。


 何か云わないと、余計な事を考えてしまうから。


「職業病、という奴か」

「ねー、そーなんですよー」


 考えないでおこう。
 きっと深い意味なんて、ない。


「ではまた、今度」


 白い本に挟まれた栞は、
 中盤の辺り。


「あぁ」


 今日も今日とて、別れ際は、何処か胸の内が空っぽになる。


 結局、水と少しの食料しか願わなかった無欲な主人公は、様々な出会いと別れを経る中で、その出来事を本に書き記して行った。


「…………」


 そして彼は、ある宮殿に辿り着く。


「…………」

「……」


 頭に触れた。


 同時刻、反対側を歩く織田も、その手を見た。





 触れたところが




 触れられたところが





 ““ あつい ””





 私もそろそろ、
 俺もそろそろ、


 進まないと。


「頑張るかぁ」


 自身に、
 向き合わ、ないと。

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 織田作之助 , 太宰治   
作品ジャンル:アニメ
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(プロフ) - 怜さん» 怜様、ご感想ありがとうございます!お優しいお言葉で、泣きそうでございます。これからも頑張ります! (2022年1月31日 20時) (レス) @page45 id: 05323f7eaa (このIDを非表示/違反報告)
- 場面を想像させる様な綺麗で幻想的な文に、しっかり作りこまれた物語。今まで読んだ織田作の夢小説の中で1番好きです。これからも頑張って下さい。 (2022年1月31日 1時) (レス) @page45 id: 64384c94d7 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 柊 琥珀さん» 柊 琥珀様、ご感想ありがとうございます.......! 嬉しい.......! (2022年1月9日 0時) (レス) @page42 id: 4dcd31a7db (このIDを非表示/違反報告)
柊 琥珀(プロフ) - 書き方が好みだ……。 (2022年1月8日 17時) (レス) id: 17f9b038b0 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - Asukaさん» Asuka様、ありがとうございます!めっちゃ頑張って書きます! (2021年8月24日 20時) (レス) id: 4dcd31a7db (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2021年6月27日 0時

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