織田作之助と真っ白な頁の波に漂う【文スト】

15　悪 ページ15

「んー……ご馳走様です」


　結局Aは三杯呑んだが、顔色も変わらずピンピンしていた。


「大丈夫です！酔ってます！」


　通常の声色で何気無く云う。


「酔ってますけど、ちゃんと帰れますので。ご心配なく！」


　酔ってない人間程酔ってると云い、
　酔ってる人間程酔ってないと云う。


　確かに元気な様で、全く眠くもなさそうだ。


　今日は起こしっぱなしだった、
　という事だろうか。


　本は、今の今まで一度も見ていない。


　それでも、


　矢張り。


　付き合って貰ったんだ、
　今日位は送ろう。


　と云おうと思ったのだが。


　然しこう何度も告げるのは丸で下心があるみたいだから。


「悪いな」


　付き合って貰った礼を云った。


　悪いのはお前ではなく、
　俺だ、と云う様に。


　そしてAも、同じ事をする。


「いえいえ、本当に、ありがとうございました！たーのしかったぁ！また明日！」


　上機嫌に大きく手を振った。
　お返しに小さく手を振り返す。


　そして、違う道を歩き出した。


　決して交わらない、その道を。



“読み終わったのか”

“未だ……です”



「………………」


　本が読み終われば、


　この夜も、終わってしまうのか？


　過去になって、
　しまうのだろうか？


「………………」


　同じ様な面持ちで、
　同じ様な心持ちで、


　未来へ向かって、歩き出す。


　明日また二人で出逢う、


　そのひとときの為にーー

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