織田作之助と真っ白な頁の波に漂う【文スト】

13　影 ページ13

「何をしている」

「わひゃぉう！」


　大きく跳ね、恐る恐る振り返った顔は矢張りAだった。


「っくりしたぁ……今日はお仕事終わるの、早いんですね」

「……ああ」


　何時もの夜の街。
　偶然、とある書店の前でAを見つけた。


　店には入らず、


　キョロキョロと辺りを見渡し、
　窓硝子から中の様子を覗こうとしている。


　偵察だとしたら、下手過ぎないか。


「どうした」

「あ、えっと……」


　悪戯がバレる前の子供達の表情に似ている。


　これは恐らく。


　彼女が、書店で、ではなく、
　小説家が書店で、なのだろう。
　

「読み終わったのか」

「未だ……です」


　では、本を買いに来たのではない。


　小説家が、本屋でする事。


「何か気に掛かるのなら、オレが行こう。何を見てくればいい」


　と聞けば。


「や、や！大した事じゃないんです！その……」


　と云ったきり、視線を落とし、書店の光に背を向けるから。


「………………」


　だから。


　それは、まるで。


「…………」


　だから。


「行くぞ」

「ぇ」


　手を掴んだ。
　細くしなやかな、ひんやりとした手。


「ぁ、あの」


　書店とは反対側に、歩き出す。


「おだ、織田作さん……っ」

「………………」


　その光が眩しいのならば、


　遠ざけてやる、
　幾らでも。

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