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【降誕祭】魔人のヨルカに召された少女 ページ27

掌を開くと、それは黒の革製首飾り(レザーチョーカー)だった。雫型の紫水晶(アメジスト)が妖しく光るそれはとても美しいはずなのに、見た瞬間喉が締め付けられたような緊張感が走った。


 ぼくからの降誕祭贈呈品(クリスマスプレゼント)です、とフョードル様の声が頭上から聞こえた。背中に手が回って体を抱き寄せられ、よろけてフョードル様の胸の中に飛び込む。身長差のせいで半分宙に浮くような感じになり、その浮遊感が気持ち悪い。


 何故か、何故か今ばかりはフョードル様が怖かった。反射的に抵抗しようと手を伸ばしたけれど、ぐっと両腕で抱き留められてそれは叶わない。フョードル様の腕は白くて細いはずなのにびくともしなかった。


 フョードル様は屈み込むように私の耳に顔を寄せる。生暖かい息が耳にかかってぞわりとした。



「A。人とはどのような存在でしょうか」


「人は……人は罪深く愚かです」


「その通りです。貴女の両親や叔父様、妹さんを殺したのは何でしょうか」


「人、です」


「では、貴女の言う暖かくて明るい町を作るのは誰でしょうか」


「人です」


「ここまで言えば、お利口な貴女なら分かるでしょう」



 フョードル様は、まるで幼子を宥めるように私の背中を撫でたり、軽くとんとんと叩きながらゆっくりと囁いた。それに連れてだんだんと私の中の恐怖心が薄れ、意識がふわふわとおぼろげになっていく。


「今日は疲れたでしょう、ねえA。……ほら、やっぱり見込通りよく似合います」


 全身の力が抜けて瞼が落ちて、彼の胸に寄り掛かる。首元にひやりとした感覚と、かちゃかちゃと金属の音がした。薄らに目を開けて首元を見ると、紫水晶が暗闇の中で揺らめいていた。


 ──嗚呼、そうだ。私に、仮初の明るい町なんて要らないのだ。


 私には此処がある。キリスト様もサンタさんも来ないけど、フョードル様がいる。赤いリボンの結ばれた贈呈箱がなくとも、こんな素敵な贈り物がある。


 ここで寝ていると、なんていい気持ちかしら。



 フョードル様が何か囁くのを最後に聞いて、私はゆっくりと目を閉じた。






**







原作及び一部引用
フョードル・ドストエフスキー作/神西清訳
「キリストのヨルカに召された少年」

☆短い上に青空文庫で公開されてるので是非読んでみて下さい

 

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作者名:ふわふわありす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/inotaku093312/  
作成日時:2023年11月16日 21時

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