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道化師の考え事 ページ19

それに、この部屋は何か底知れぬ不気味さを醸し出していた。
 その不気味さは、前々から青年が少女に対して感じていた不気味さと類似していた。


 姿を見ない上に、扱い悪いこの部屋。少女に何かあったのだろうか、相当苦しい任務を担当しているのだろうかと青年は彼女の身を案じた。



(……いや、そもそも私とあの子は然程関係が無いのだし、心配する義理も無い)



 青年は部屋から出ようと振り返った。振り返ると、目の前には顔が浮いていた。



「ハァ〜イ、めちゃくちゃ御機嫌よう」



「……っ、う、うわぁぁあッむぐ!!?」



 叫び声を上げようとした男の口を、誰かの手が塞いだ。目の前に浮く顔の人間の手だ。

 顔はまるで魔法のようにその場に全身を現し青年の前に立った。この顔の正体は、滑稽な白い衣装に身を包んだ所謂『道化師』。道化師は面白げに笑った。



「ハハハーハハ!君はやっぱり面白い反応をしてくれるね。でも此処では静かにしないと駄目だよ?」



「なんだお前か……危うく心臓が止まるかと思ったぞ。というか、静かにするのはお前の方だろ」



 青年が冷や汗を拭いながら溜息をつくと、道化師はくるりと辺りを見渡した。



「それにしても……女の子の部屋に勝手に入るなんて、ちょっと気配り(デリカシー)に欠けるんじゃないの〜?」



 悪戯っぽく笑う道化師に、痛いところを突かれたと言うように青年は呻き声を出した。



「うっ、だが人の気配が本当に無くて……その、心配になったんだ」



「心配?でも君とあの子って仲良かったっけ?」



 まだ私の方が話した回数多いと思うけど、と道化師は外套を翻した。私だって分かっている、だから部屋から出ようとした───青年は先程、少女を心配することをやめたのだ。

 青年は犯罪組織の一員と思えぬ程誠実で優しく、自己犠牲の精神を持ち合わせている。

 しかしその自己犠牲が発揮されるのは自らの家族(カジノ)、それに限りなく近い存在、そして清らかな者に対してのみであり、毒にも薬にもならない(なんなら限りなく毒に近い)鼠の部下に容易く向けられるものではないのだ。


 そんな青年の胸の内を察したのか、道化師は意地悪い笑みを浮かべるとねっとりとした声で囁いた。

鼠の独り言→←青年の心配事



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作者名:ふわふわありす | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/inotaku093312/  
作成日時:2023年11月16日 21時

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