12話 ページ13
「なあアントーニョ」
「な、なんなんギルちゃん？」
ビクッという効果音が鳴るかのようにアントーニョの体が跳ねた。顔がニヤついているギルベルトに、アントーニョは嫌な予感がしているのか笑顔がひくりと引き攣っている。
「お前、アーサーが好きなんだろ？」
「エﾞッ、嫌やわ、ギルちゃん変なこと言わんといて！」
ぶんぶんと首を振って全否定するアントーニョに、ギルベルトはさらに下品にニヤニヤと笑った。
「ほーぉ、じゃあなんで主従関係の契約破棄をしねぇんだろーなー？」
「あ、あかん！ 親分用事思い出したわ！」
必死に抵抗を試みるアントーニョだが、完全に手首を掴まれていてはさすがの彼も逃れることはできない。いくら機械人間とはいえ、アントーニョには人と同じように力加減をするよう制御する神経パイプが通っている。
「……なぁ、なんでだ？ アーサーもお前のこと好きっぽいぞ？ 告っちまえよ」
ギルベルトが声を潜めて言えば、必死に抵抗していた彼の動きはぴたりと止まる。アントーニョに先程までの明るい雰囲気はなく、昔を思い出しているのか、瞳はどこか遠くを見ていた。
「……俺な、昔、アーサーに『人間にしてもらう』って約束してもらってん。本人が、覚えてるかは、分からんけど」
ゆっくりと口を開くアントーニョは、今まで見せたことのない切ない顔をしていた。
「はぁ？ 約束？」
ギルベルトが理解できずに聞き返すと、アントーニョは太陽に雲がかかったような笑みを浮かべ頷く。
「昔、アーサーが古代図鑑を手に持ってな、手のひらサイズの青い水晶みたいなんを俺に見せて『いつかこれを見つけてお前を人間にしてやるから待ってろ』って俺の手の甲にキスしたんやで」
「手のひらサイズの青水晶……って、それ"マナの水晶"のことじゃねぇか……」
「うん？ そんな感じの名前やったと思うわ」
顔をだんだんと険しくするギルベルトとは対象的に、アントーニョは曖昧な返事をした。
いつの間にかギルベルトの手に加わる力は緩まっている。アントーニョはしめたと言わんばかりに腕を振り、彼から逃れた。
「ま、詳しいことはよぉ分からんけど、誰にも言わんとってな！」
「あっ、おい、待て！」
ギルベルトの声も聞かず、アントーニョは爽やかな笑みで家を出ていく。相変わらず素早い奴だ。ギルベルトも慌てて外に飛び出したときには、とっくにアントーニョの姿は見えなくなっていた。
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作者名：ほたてろいど | 作成日時：2016年12月3日 22時
