� ，△覆燭�そばに来てくれてからずっと最高の気分なの ページ4
トップスターになりたい。そんな夢はあったが、かなわないのだろう。松平勝は、現役時代の自分を思い出し、港の見える自宅の窓辺で外を眺めていた。現役を退いて隠居生活をしている松平は、現役時代の剛健さがどこかに行ってしまったような姿になっていた。ただ、学生時代にすこし齧っていたギターを少し奏でるだけだった。
トップスターになりたい。そんな夢はあったが、かなうはずもない。毛利誠は今日も獣医の仕事で手いっぱいだった。休む暇もなく、やっとの休みも疲れを癒すためだけに浪費してしまう。でも、なにか行動をしたところでトップスターにはなれないだろう。だって、こんなに華の無い地味な自分がスポットライトに照らされることなどイメージがつかないからだ。
今日も慌ただしい仕事を終え、やっと帰宅できる。今日はあまり客足がなく、数か月ぶりに定時で帰れる。毛利は港の見える坂を鼻歌を歌いながら歳に似合わずスキップ気味に下って行った。と、自宅の隣の家からギターの音が聞こえた。それはとてもきれいな旋律で、毛利はすぐに聞き惚れてしまった。確か、毛利の隣の家には老年の男が一人で暮らしているようだが、朝早くに出勤し、夜遅くに帰ってくる毛利とはあまり顔見知りではなかった。どうやらその音は隣の家の二階から聞こえるようだ。
毛利はその音がもっと聞きたくなって、隣の家の向かい側にある自宅の二階の部屋に早歩きで向かった。その音を求めて窓を開けると、隣の男も窓を開けていたようで、目が合ってしまって、しかも男の奏でる音も止まってしまった。
「あ…っと、すみません、なんか。」
毛利がごまかしながらそういうと、松平は微笑んで会釈し、またギターを奏で始めた。毛利はそのギターの音にたまらなくなって、思わず歌を口ずさんだ。その曲は女性が旋律をうたうものだっが、毛利は変声期にあまり声変わりをしなかったため、高い声で歌うことが得意だった。顔と声があっていなくて嫌いだが、歌を歌うときは別だった。
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作者名：teate | 作成日時：2020年10月20日 18時
