寂しがりやに欲しがりや【櫻井百瀬】 (ページ17)

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メモ帳とテクニックページ17

振り向こうと首を曲げようとした拍子にポンと肩に手を置かれてピンク色の爪がきちんと整えられた綺麗な指先が見える。
その人物はそのまま顔を覗き込むものだからあまりの近さに声が震えた。しかもその人物の正体が彼だったものだから舌を間違ってかんでしまいそうな勢いだ。

「も、ももモモくん！？」
「仕事から帰ってきたら女の子ふたりが話してるから誰かと思っちゃった。どーしたの？今日は俺じゃなくて特待生ちゃんに用事？」

ちょっとでも動いたらモモくんの唇が耳に当たっちゃいそうな距離に恥ずかしくなって顔を引いた。とはいえ近いことには変わりないから彼の息が耳を掠って擽って…唇を縫い付けるように閉じる。

「…って特待生ちゃんはなんでメモ帳持ってるの？」
「櫻井先輩の演技…じゃないか、言い方とかはもちろんのこと彼女さんの反応も参考にと…邪魔なら今すぐ退散しますよ」
「あはは、相変わらず真面目だ。いいよ、この子めちゃくちゃ可愛い反応するからさ、結構参考になるかもね？」

意地悪モードが入ってきてる彼に目線を送る。
そろそろ羞恥心で身体が爆発しそうだからやめて、そう目で訴えかけようとじっと見つめると瞳がバッチリ合う。純粋に、瞳が合っちゃえば綺麗だなぁって長い間見つめてしまう。するとモモくんはふい、って目を逸らして口を手で覆う。

「なんかそれ、ズルくない？？めちゃくちゃグッと来たんだけど」
「モモくん…もしかしてドキドキしてますか？」
「どこでそんなテクニック身につけてきたの？あっ、まさか俺以外の男と…！」
「目の前にいる人が原因なんですけど！」

なぜこんな流れになったのか分からない会話に特待生の彼女はメモ帳を持ちながらふふ、と笑う。
倍率が高いと言われる宝石が丘の特待生に選ばれるほどの子だからやはり勤勉なのだろうか、こんなものを見せられているというのにずっとメモをしていたらしい。私には徹底理解できない世界だ。

モモくんは私の言葉を聞くとえ、と目を丸くした。
雑誌で男の子が喜ぶ行動言動特集とかを見るのも、自分でも可愛いって思う顔が自然にできるように鏡と毎日にらめっこするようになったのもあなたが事の種に決まっているじゃないか。
そんな事細かい事実は本人の前ではぜっっったい言わないけれど。

「俺が原因…か…なんかそれ俺が原因で君がどんどん可愛くなってくってことでしょ？ふふ、そういうのなんか堪んないよね」
「いや、あの…ちがくはない…けど改めて言われちゃうとなんか…なぁ…」

そういえば私なんでここに居るんだ？無理やりほっぺの熱を冷ますように必死に頭を働かせた。