好きな子 ページ15
寮に戻ったのは門限ギリギリでほっ、と息を吐く。
葵に知られたらまたなんか言われそうだな。そう思いながら部屋に入ると俺と同室の輝崎蛍が台本の確認をしていた。
相当集中してるのか俺の存在には気づいてないっぽい。
「(声掛けたいけど邪魔しない方がいいかなぁ…)」
「あっ、櫻井先輩。おかえりなさい、すみません少し熱中しちゃって…」
「ただいま、大丈夫だよ。それくらい集中してたんでしょ？ごめんね邪魔しちゃって」
「いえ全然…今日は少し遅かったですね。なにかあったんですか？」
なにかあった、か。う〜んと答えに迷っていると蛍は申し訳なさそうに「答えたくないなら答えなくても大丈夫ですよ」と言う。控えめだよね、蛍は。
「別に答えたくないわけじゃないけど…うーん、強いて言うなら好きな女の子を泣かせちゃった、のかな。…だから、ギリギリまで彼女とお話してた」
「我ながらやらかしたな、って思ったよ、一時間も待たせた挙句俺の勝手で更に待たせちゃったんだから。だから現在進行形で頭ん中で反省会中」
着ていた上着を脱いでハンガーにかける。でもやっぱり、あの子が俺に会えなくなることを不安に感じてたのは嬉しかったなぁ。ある意味両思いかも。
やっぱりそういうのって、片思いって切ないもんね、自分が愛しても相手に愛されなきゃ寂しいし。
「ふふ…」
「…？どうかした？」
「あ、いえ…でも、なんか先輩嬉しそうだなって」
「嬉しいよ、最初彼女から電話もらった時正直怒られるかと思ったけど安心した、って泣き出しちゃったんだよ？…なんかそれってよくない？」
「…俺にはまだ、よくわかんないです」
困ったように蛍は苦笑いをする。あまりこういった話題には無頓着そうな彼は対応に困ったようだった。
そんな彼に「好きな女の子が出来たらわかるかもしれないね」と言うと優しく笑ってそうかもしれませんと言う。この微笑み方、女の子に見せたら好きになられそうなくらいだな。
「そういえばその台本って内容どんな感じ？」
「これですか？えーっと遠距離恋愛でなかなか彼女に会えない感じので＿＿」
「遠距離恋愛か〜なかなか会えないってどれくらい？」
「半年に一回、ですね…」
「なにそれ、俺だったら耐えられない」
ちょっとだけ台本を借りてペラペラとざっと目で追う。
＿＿１回会うとさ、帰りたくなくなっちゃうんだよね。
とあるひとつのセリフに目が止まる。
まるで彼女に会ってまたねと言う前の自分だったから。
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作者名：ユキ香 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年8月21日 20時
