26:食堂での戦争 ページ26
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それまで穏便に笑い合っていた筈が、一男子生徒の一声で身が凍った。
かくいう私も、噂を耳にして自身のお弁当を見つめたまま固まる。
食堂の入り口付近で女の子たちの黄色い歓声が上がる。
そっと盗み見ると、学校で一番人気のサッカー部が女の子たちに声をかけられていた。
凛くんはその中心の方に居る。
「最悪、こっち来るじゃん」
「移動する? A」
「……い、いいよ別に。もう凛くんも私に興味ないだろうし」
席が埋まっていたとはいえ、サッカー部の人たちは私達と同じ机の端に座った。
案外近い距離に、残るランチボックスの具材を箸で掴んで俯く。
ちらっと見た凛くんは私と対照の一番遠い席に座っていて、他の女の子なんて無視して箸を割っていた。
「ていうか、糸師関係なく普通にうるさいし戻らない?」
「そだね、アイスはまた今度にしよ」
「ん、もう食べ終わる!」
煙たそうに顔をしかめた友達の声に、慌ててデザートのメロンを口に入れた。
一つグループを挟んで隣に座るサッカー部は食堂にいた女の子たちの過半数を密集させている。
「凛ちゃんまじでLINEやってないの?」
「絶対嘘じゃん、インスタで良いから教えてよ」
「……失せろ。飯が不味くなる」
「超冷たいんですけど!」
上級生に話しかけられている。
あれが凛くんの通常運転だ。
しばらく関わっていないから忘れていた。やけに冷たく感じるのは、今まで私はあんな言葉を投げられたことが無いからだろうか。
「ねね、凛って彼女いないでしょ?」
「…お前に関係ねえだろ」
「えーいないなら私立候補しちゃおっかな」
「無理」
「何でー?」
一つ大きなため息を吐いたかと思うと、凛くんはこれまで食べていた箸を止めて、今まで見向きもしなかった女の人の顔を睨み上げた。
「好きな女がいる」
凛くんの一言にその場の空気が騒然とした。
悲鳴にも近い歓声。周りの男子ですらどよめきの声を上げた。
聞いた張本人はしかめっ面で「…誰?」と問い詰める。
この場で唯一表情を変えない凛くんはその言葉を聞いて、ゆっくりと顔を傾けた。
っ今、目が…合っ、
「A、行こっ」
「っえ、あ」
友達に手を引かれて弾かれた様に立ち上がって食堂を出た。
凛くんがあの後なんて言ったかは私にはわからない。
それでも確かに……あれだけの人が居る中で、凛くんの目は私を真っすぐ射止めたんだ。
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おそらまめ(プロフ) - 彩華さん» 彩華様、感想長らく気づかず遅くなり申し訳ありません。ありがとうございます。きっと二人、これからも沢山言い合いして、言葉にならない愛を育んで、お互いが明日を生きる理由がお互いになっていくんだと思っています。また機会があればどこかでお会いしましょう! (7月21日 13時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
彩華(プロフ) - 完結から時間経っているとはわかっているんですけど、これだけは言わせてください。めっちゃ好きです!夢主ちゃんも凛君も末長く幸せになって!これからも他の小説での交信頑張ってください。応援しています。 (7月11日 0時) (レス) @page45 id: 2b870d0ab1 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - mooさん» moo様、コメントありがとうございます!原作で摂取できない分滅茶苦茶に砂糖煮詰めております(^^)楽しんで頂けたようで何よりです。ご覧頂きありがとうございます。 (6月1日 18時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 糖分過多ー!!面白かったです! (6月1日 3時) (レス) @page45 id: e3fdbdb203 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ルアさん» ルア様、コメントありがとうございます!大切に作ったので、そう言って頂けて作品も作者同様喜んでおります。こちらこそ、作品を応援して頂きありがとうございます! (2023年4月19日 14時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2023年3月27日 18時