外伝:あの日の願い ページ43
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「――…分かってんだよ、タコ」
誰かなんて、聞かなくても分かる。
私を取り巻く匂いと、腕の太さと、背中の熱が。
大好きなヒーローだと、訴えている。
「何、で……フランス、行ったんじゃ」
「行ったわ。けどどっかの馬鹿が無駄金貯めて会いに来るとか言い出したから戻ってきた」
「〜〜何それ、まるで…帰ってきたの、私のため みたいじゃん……っ」
「そうだっつってんだろアホか」
だって、凛くんは今や皆の憧れのサッカー選手で……。
日本中で、…世界中で注目を浴びてる時の人の筈なのに。
サッカーだけが彼を熱く滾らせる唯一のものなのに。
それを差し置いて、凛くんは私の為に会いに来てくれたっていうの?
「……A、こっち見ろ」
「ん…ぐす、」
「――…お前が泣いてる所なんか初めて見たわ」
「だってぇ…! 私の事なんて、もうどうでもいいと 思って…っ」
「どうしたらそんなぬるい思考になんだよ」
2年ぶりに、画面越しじゃない凛くんと対面した。
また背が伸びたのかな。気付けばもう凛くんも18歳になったんだ。
16歳の誕生日以来。少し髪も無造作に伸びて大人びた表情になったけれど、鋭い中での優しい瞳は相変わらずでまた涙が出てきた。
「俺が有名になって、離れていくとでも思ったか」
「そりゃ…誰でも不安になるよ」
「ぬりぃな。言っただろ。さっさと世界一になって迎えに来るって」
「あと」
長袖のジャージを捲って、私にそのごつごつした手首を見せてくる。
意図が分からず首を傾げると 苛立った様子で凛くんはポケットから懐かしいミサンガを取り出して私の手に乗せた。
「これ切れたから、俺の願い叶えに来た」
「これって1年の時の…。ずっとつけてくれてたの?」
「当たり前だ。手だと切れんのに時間かかった」
「……願い叶えるって?」
私の手ごとミサンガを包み込んでじっと私の顔を覗き込む凛くん。
その表情からは気持ちは読み取れない。
長い沈黙の後、彼は私の頬の涙跡を辿った。
「これが切れたら、お前を迎えに行く」
予想外の願いに唖然とした。
世界一だって、プロサッカーだって願えるのに、私一人の為にミサンガに願掛けなんて。
「意外とすぐ泣くな、お前」
「っ……凛くんが、泣かしたんじゃん…」
「そーかよ」
そう言って私の頭を引き寄せて自身の胸板に優しく押し付けた彼の手はやっぱり冷たかった。
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おそらまめ(プロフ) - 彩華さん» 彩華様、感想長らく気づかず遅くなり申し訳ありません。ありがとうございます。きっと二人、これからも沢山言い合いして、言葉にならない愛を育んで、お互いが明日を生きる理由がお互いになっていくんだと思っています。また機会があればどこかでお会いしましょう! (7月21日 13時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
彩華(プロフ) - 完結から時間経っているとはわかっているんですけど、これだけは言わせてください。めっちゃ好きです!夢主ちゃんも凛君も末長く幸せになって!これからも他の小説での交信頑張ってください。応援しています。 (7月11日 0時) (レス) @page45 id: 2b870d0ab1 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - mooさん» moo様、コメントありがとうございます!原作で摂取できない分滅茶苦茶に砂糖煮詰めております(^^)楽しんで頂けたようで何よりです。ご覧頂きありがとうございます。 (6月1日 18時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 糖分過多ー!!面白かったです! (6月1日 3時) (レス) @page45 id: e3fdbdb203 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ルアさん» ルア様、コメントありがとうございます!大切に作ったので、そう言って頂けて作品も作者同様喜んでおります。こちらこそ、作品を応援して頂きありがとうございます! (2023年4月19日 14時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2023年3月27日 18時