34:確信した心 ページ34
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「私の中で名もなきヒーローだった人が、昨日糸師凛って名前になったんだよ。
名前は凄いんだよ。だってその人を意味づける唯一のものだから」
「……馬鹿か。同姓同名の奴なんて大勢いんだろ」
「そりゃそうだけど、名前を知るだけでその人の存在に気付けるんだ。
凛くんの名前を呼ぶほど、私は凛くんに気付ける気がする」
「呼ぶだけじゃどうにもなんねえだろ」
「それもそうか」と言いながら、それでも女は楽しそうに笑った。
俺といるなんて、楽しくねえ筈なのに。
――クソ兄貴の影ばかり追いかけまわして、誰とも距離を置こうとする俺なんて。
「それにね、凛くん」
「……あ?」
「名前の力は大きいよ。自分の名前って呼ばれただけで嬉しいもん」
「…それが何だ」
「私は凛くんをいっぱい嬉しい気持ちにしたいから、沢山凛くんの名前を呼ぶね」
名前の力? 何だそれ、非合理的で存在確信のねえ…アホが好きそうな言葉だな。
けどこうして目の前で必死になって俺の名前を連呼するこの馬鹿リスを見てると、憎悪や復讐心で覆われそうだった心に、こいつの声が広がって隙間を開けていく。
「お前……」
「あ! やばっ先生来ちゃった、じゃあ行くね凛くん!」
「は? 突然」
漫画みたいな勢いでその女は忽然と消えた。
取り残された俺は立ち尽くしたまま廊下へ目を向けている。
当てられている視線は、クラスの奴からの物珍しそうなもので、ガン飛ばせばすぐに目を逸らしやがった。
「バカな女」
宇野 A。
心の中でその名前を呼ぶだけで、もうあの女は俺の中で無視できない存在に変わった。
たかが名前を呼ぶだけ。
なのに、宇野Aという羅列が俺の中に融けこんで一文字ずつ軽快な音を立てている。
「クソ面倒臭え感情だな………」
厄介な感情だ。
心に巣食っていた人間の汚い所を、宇野が削ぎ落していくみたいだ。
「凛くんの全部、好きなんて平凡な言葉じゃ表せないくらいだから」
2か月して、初めてアイツが俺に対しての気持ちを言葉にした。
好きだとは分かっていたが、こうも真っすぐ、俺のいない所で俺を救う宇野の言葉に俺は確信した。
「――……もう、いつからか分かんねえんだ」
「……凛くん、? 何が、」
こうして追いかけるのも、触れるのも抱きしめるのも、お前だけだ。
「好きだって言ってんだよ、A」
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おそらまめ(プロフ) - 彩華さん» 彩華様、感想長らく気づかず遅くなり申し訳ありません。ありがとうございます。きっと二人、これからも沢山言い合いして、言葉にならない愛を育んで、お互いが明日を生きる理由がお互いになっていくんだと思っています。また機会があればどこかでお会いしましょう! (7月21日 13時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
彩華(プロフ) - 完結から時間経っているとはわかっているんですけど、これだけは言わせてください。めっちゃ好きです!夢主ちゃんも凛君も末長く幸せになって!これからも他の小説での交信頑張ってください。応援しています。 (7月11日 0時) (レス) @page45 id: 2b870d0ab1 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - mooさん» moo様、コメントありがとうございます!原作で摂取できない分滅茶苦茶に砂糖煮詰めております(^^)楽しんで頂けたようで何よりです。ご覧頂きありがとうございます。 (6月1日 18時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 糖分過多ー!!面白かったです! (6月1日 3時) (レス) @page45 id: e3fdbdb203 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ルアさん» ルア様、コメントありがとうございます!大切に作ったので、そう言って頂けて作品も作者同様喜んでおります。こちらこそ、作品を応援して頂きありがとうございます! (2023年4月19日 14時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2023年3月27日 18時