1.吹雪が来る ページ3
浅草は日が沈まない。
ガス灯の光が網膜を刺激して、昼と夜の境目を暈かす。
整備された石畳の道に、下駄がコロンと当たる音がする。
「_止めてください…!!俺以外はこの人を抑えられない…!!」
「いいから離れろ!!!」
下駄は不規則な足取りで、魚の群れのような人混みに割って入る。
間もなくして人々の圧から突然解放されると、何度かカタカタと音を立てて止まった。
止まった反動で絹糸のような白髪が少し揺れる。
押さえた肩口から血が滲んでいる女性、
血走った目で獣のように唸る男性、
それを抑える一松羽織を着た少年。
辺りの数人の警官は少年を男性から引き剥がそうとしている。
「止めてくださ…離して!!!!!!」
少年は絶えず叫ぶ。
見かねた警官が、これ以上抵抗するならと忠告をして棍棒を振りかぶった。
少年は独特な呼吸音を捉えて、思わず顔を上げた。
彼は鬼狩りであった。だから、喧騒の中でもこの音に敏感に気付けた。
だがそう気付いた時にはその喧騒も地面も遠く、何かに抱えられている感覚だけがした。
少年の赤い瞳に映ったのは、風を受ける黒い布から覗いた、ふわりと浮かぶ白い髪。
彼は何故か、吹雪の日の事を思い出した。
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作者名:ほっぷすてっぷ | 作成日時:2024年1月5日 22時