23【セセコマイ】 ページ25
苔むした古井戸があった。
石積みの、見るからに古いそれは妙な存在感を放っていて私は眉間に皺が寄るのを感じる。日が既に半分ほど沈んでしまった今、先頭を歩く男子が持つ懐中電灯に照らされている古井戸の雰囲気は一言でいうなれば「不気味」に他ならない。
「目的は達成したんだし、帰ろうよ」
「えー、もうちょい見て回ってからにしよやー」
友人が振り返ってそう言うものだから、私と角名は顔を見合わせた。
私も角名も、嫌な予感をひしひしと感じていた。それはきっとこの状況を恐れる気持ちと言うよりも「なにかおこりそうな」予感の方なのだ。
しかしそんなことを口にするわけにも行かず、黙って古井戸の周りを楽しそうに見て回る一行を眺めながら声を潜める。
「狐を呼び寄せた方がいいんじゃない？」
「……呼べるかな……」
一応二匹に言われた呼び方を実践してみる。
柏手を二回打ち鳴らし、彼らの名を口にする。それだけで二匹がここまでやって来るのだというが、今までに一度もやったことが無いので、少しばかり緊張しながら「侑、治」と声に出せば感覚で五秒。
ぶわりと私の周りを風が吹き、首元と膝に柔らかい毛並みの感触。
「あるじの命に従い」
「われら馳せ参じまして」
「おぉ、本当に出た」
出たちゃうわ、走って来たんや！と首にしがみついた侑が角名に吼える。私の膝をぎゅーっと抱き締める治を片腕で抱き上げれば「サクサ、腹減ったぁ」とすり寄って来る。うぅん、可愛い。
「もうちょっとしたら終わるからね、大人しく待ってて」
「アレやな、肝試しっちゅーやつやな！」
「ツムぅ……邪魔や……」
「おぉん？！」
「スナの頭空いとるやん」
「お前が行けや！」
「いやや、俺のが先にサクサと契約したんやもん」
「それ持ち出すんはセコい！」
「ケモノにセコイもセセコマイもあらへんもん」
角名の哀れみの視線が刺さる。こちとらこういう小競り合いが毎日繰り広げられているのだ。もう慣れた。
無理やり頭の上の侑を引き剥がして治を抱く腕と反対の腕で抱える。両脇に俵を抱えているみたいな格好で井戸から一歩離れたその時であった。
「ッ！いる！」
途中からずっと、じぃっと古井戸を見ていた角名の鋭い声がして、私は促されるがままに古井戸を見る。
何がいるのかとか、全然分かっていなかったのに、唐突な緊迫感の高まりに否が応でも見えてしまった。
古井戸とその蓋の隙間から、こちらを覗く一対の瞳が。
【セセコマイ】
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藤浪(プロフ) - merisuさん» 初めまして！とても面白いだなんて……ありがとうございます！ぼちぼち書いていきますので、どうぞのんびり更新をお待ちください……！ (2021年8月20日 20時) (
レス) id: a6c7f148a0 (このIDを非表示/違反報告)
バボ - はじめまして！！一気読みしました！！いやぁ、侑君と治君めちゃくちゃかっこいいし、可愛いですね！とても面白かったです！！続き待ってます。頑張ってください！ (2021年8月19日 22時) (レス) id: f5aeefa10b (このIDを非表示/違反報告)
merisu(プロフ) - はじめまして。とても面白い作品をありがとうございます！！続きを楽しみに待っています(^^)更新頑張ってください！！ (2021年8月19日 19時) (レス) id: bbb64c35b8 (このIDを非表示/違反報告)
藤浪(プロフ) - mioさん» はじめまして！嬉しいお言葉、ありがとうございます。もふもふいいですよね、もふもふ……。聖臣くんを書くのもとても楽しみなので、のんびりご覧いただければ幸いです！！ (2021年8月8日 6時) (レス) id: 0698c9c155 (このIDを非表示/違反報告)
mio(プロフ) - 初めまして。とても面白かったです！もふもふ触りたい……。聖臣くん登場するのも楽しみにしております (2021年8月6日 20時) (レス) id: e44c41366c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：藤浪 | 作成日時：2021年4月28日 22時
