00【狐】 ページ2
悍ましい。
目の前でズルズルと這って来る異形が、私には酷く恐ろしく思えた。
生まれて初めて見た異形は人のようで、人では無い形をして、ずるりずるりと私に向かって這い寄って来る。腰が抜けて後ずさる事しかできない。
『オッポォウウゥウウゥウ……ロッポォオオォオゥゥウオォ……』
ぷちぷちと耳の周りで弾けるような、嫌悪感しかない声がどんどん近寄って来る。
どうしよう、どうしたらいいんだろう。辺りは木々、助けを呼ぶための手段も無い。
困惑と恐怖、怯え、泣きたくなる。
「たす、た、す、けてッ!!!!」
掠れた声が森の中に響いた。
近くに在る建物なんて、あの神社しかない。でも、神社の鳥居は目の前にあっても、その境内は長い長い石段を登り切った先だ。間に合わない。
石畳に躓いて、立ち上がろうとした膝がガクリと曲がった。
足首を異形に掴まれる。もう無理、こんなことになるんなら『あんな約束』するんじゃなかった。
泣きたくなるのを堪えて手を伸ばす。僅かに、鳥居に指先が触れた。
だからなんだって話だけど、その瞬間である。
「なぁ、――」
「なんや、――」
「コイツ、――さんが言いよった女?」
「せやろなぁ」
「ええ匂いするもんなぁ」
「喰うか?」
「喰うたらおもんないで」
「ふぅん」
「呪霊で我慢や」
「しゃーないなぁ」
うつ伏せになった頭の上あたりで、そんな声がする。
男の子二人、妙に上ずった声に『ああ、これが前門の虎、後門の狼ってヤツか』と回っていないのに冷静な頭が呻いた。
九死に一生でもあればいいものの、望みは薄い。こんな近所の森の中で使いッ走りの帰り道に死ぬのか。でも、死ぬとか想像できない。大怪我する、とかにしとこ。嫌だな、大怪我。
分かんないけど。
目を閉じた頭の上で、何かが跳び上がるような気配がする。
断末魔のような、黒板を引っ掻いたような不快な音。
そして、沈黙と共に私の脚の圧迫感も消えた。
急激な展開に、追いつけない私は困惑した。
しかし誰が思うだろうか。
顔を上げた先に、獣の耳と尻尾を生やした男子が二人。
狡猾そうで、いやーな笑みを浮かべて私を見下ろしているなんて。
これが、私の人生設計が一気に狂うきっかけになるなんて。
……きっと、誰も思わなかっただろう。
これは、そんな困惑しっぱなしの私と狐と呪術師の物語である。
【狐】
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藤浪(プロフ) - merisuさん» 初めまして!とても面白いだなんて……ありがとうございます!ぼちぼち書いていきますので、どうぞのんびり更新をお待ちください……! (2021年8月20日 20時) (レス) id: a6c7f148a0 (このIDを非表示/違反報告)
バボ - はじめまして!!一気読みしました!!いやぁ、侑君と治君めちゃくちゃかっこいいし、可愛いですね!とても面白かったです!!続き待ってます。頑張ってください! (2021年8月19日 22時) (レス) id: f5aeefa10b (このIDを非表示/違反報告)
merisu(プロフ) - はじめまして。とても面白い作品をありがとうございます!!続きを楽しみに待っています(^^)更新頑張ってください!! (2021年8月19日 19時) (レス) id: bbb64c35b8 (このIDを非表示/違反報告)
藤浪(プロフ) - mioさん» はじめまして!嬉しいお言葉、ありがとうございます。もふもふいいですよね、もふもふ……。聖臣くんを書くのもとても楽しみなので、のんびりご覧いただければ幸いです!! (2021年8月8日 6時) (レス) id: 0698c9c155 (このIDを非表示/違反報告)
mio(プロフ) - 初めまして。とても面白かったです!もふもふ触りたい……。聖臣くん登場するのも楽しみにしております (2021年8月6日 20時) (レス) id: e44c41366c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤浪 | 作成日時:2021年4月28日 22時