藤ノ花ヲ食ベテ【鬼滅の刃】 (ページ19)

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・ side 義勇ページ19

部屋の中を歩き回る俺についてくるこの鬼の少女

てちてちてち

とてとてとて

「……おい。何故追いかけてくる」

『お話したいからです』

俺が冷たく言っても真っ直ぐと鈴の音が鳴る様な声が聞こえる

いつまでも追いかけられても困るため一度止まると足に抱きつかれた

俺を逃がさないためだろう

その行動があまりにも可愛くて一瞬呼吸が止まりそうになった

そして胡蝶からはただならぬ殺気が漏れ出ている

笑顔だから余計に怖い

「やめてくれ。胡蝶が(俺に)怒っている」

『しのぶ様はそんな人じゃありません！』

何処と無く話の食い違いに溜め息を零す

胡蝶の事を悪く言われたと思ったのかふんふんと言いながら足を弱い力で叩かれている

全く痛くはないが

そして俺はまた溜め息を零しながら鬼を抱き上げた

「はぁ…話を聞いてやるから叩くな」

『はい！』

するとこいつは嬉しそうな顔をして頷く

そんなに俺と話したかったのか…？

物好きな奴だな

ただ、こいつになら…Aになら好かれても悪い気分はしない

そしてしばらく色々な話をした

口下手な俺の代わりにAが話してくれて、相槌を打つだけで喜ぶ

変わった鬼だが、同時に人を襲わない…いや、襲えない鬼だと分かった

人の血肉や自分と同じ鬼が嫌いだなんて珍しい

ふとそう思っているとしばらく口を閉じていたAがすんすんと鼻を鳴らしながら口を開いた

『冨岡様、お水の匂いがします』

……水の呼吸を使っているからだろうか

自分では分からないが、鬼の嗅覚ともなると分かるらしい

『優しい匂いと悲しい匂いの混ざった複雑な、でもとても綺麗な匂い』

「………そうか」

優しい…か…

俺は優しいのだろうか

悲しいのだろうか

未だに蔦子姉さんや錆兎を失った悲しみは癒えていない

その匂いか

ふ、と手が伸びてきて頭を優しく撫でられる

小さくて可愛らしい手

それでも安心する優しい手だ

『冨岡様はいい子です。いっぱいいっぱい頑張ったのでいい子です。我慢はいけません』

Aにそう言われ、目頭が熱くなり涙が頬を伝う

それは自然に流れ出たものだった

彼女の優しい言葉に涙が出てきた

そしてその涙を優しく拭ってくれる

「あぁ…」

ありがとう…

お前のおかげで、少し心が救われた気がする