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汗ばむ暑さから一転して、肌寒くすら感じる10月上旬。季節の移り変わりと共に、あたしはいつの間にか嵐ちゃん本人に対しても、『鳴上さん』から『嵐ちゃん』と呼ぶようになっていた。本番が近付くにつれて打ち合わせの回数も増えていき、自ずと顔を合わせる機会が多くなる。仕事の話はもちろんのことだが、彼はあたしに似合いそうな化粧品をオススメしてくれたり、食べるのも勿体ないくらいの可愛らしいお茶菓子を渡してくれることもあった。お返しにとばかりにあたしが用意するのは、ホットアイマスクだったり、喉にいいと聞く柚子茶だったり。女子力とは? と自分で自分に問いかけてはみるが、いつも嬉しそうに受け取ってくれるから、悩むのはすぐにやめる。本番の日まで残り約2ヶ月。穏やかに、静かに、日々が過ぎていった。
「お願いがあるの」
打ち合わせを終えたあとに呼び止められて、彼は顔の前で掌を重ね合わせる。今日はもう家に帰るだけの予定だったあたしは、「あたしにできることならなんなりと!」と内容も聞かずに承諾すれば、「付いてきて」と練習スタジオへと案内された。
「アタシの歌に対するAちゃんの、率直な意見を聞かせてくれないかしら?」
いつも自信満々な彼からが、不安気に眉を下げる。プロデューサーとしてのあたしを頼ってくれたことが素直に嬉しくて、背筋を伸ばして全神経を耳に集中させた。携帯からイントロが流れ、マイクを通さないそのままの声がスタジオに響く。優しい歌声。なのに、まるで鳥籠に閉じ込められているかのようにどこか窮屈に感じて、あたしはすぐさま「あの、」と手を上げた。
「えっと……うまく、言えないんですけど、」
「大丈夫よ。Aちゃんの言葉が聞きたいの」
「Knightsの鳴上嵐としてではなく、ただの鳴上嵐として、歌ってください」
Knightsのメンバー全員とで歌うときの嵐ちゃんは、いつも周りをよく見て、みんなの変化に臨機応変に対応していた。人に合わせることができることは才能であり、グループとしては欠かすことのできない存在。だけど、今回Knightsのみんなはいない。ステージに立つのは、彼ひとりだけ。
「誰の目も気にせず、嵐ちゃんらしく、歌ってください」
もっと自由に羽ばたいていいんだよと、鳥籠の鍵を開く。彼の口が再び開いて、どこまでも続く空のように真っ直ぐと、歌声は伸びやかに広がっていった。嵐ちゃんが、ありがとうと微笑む。あたしは、彼の背中に自由の翼を見た気がした。
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いちご - カップルになった続きがほしいです! (2022年4月16日 16時) (レス) @page10 id: 9dcf6f7d02 (このIDを非表示/違反報告)
冬梨(プロフ) - くまりつさん» こちらにもありがとうございます……! この嵐ちゃん連載は当方もお気に入りでして……好きだと言ってもらえて本当に嬉しです! なにより、コメントいただけるだけで本当に嬉しいです! ありがとうございました! (2022年3月14日 20時) (レス) id: cc516d419d (このIDを非表示/違反報告)
くまりつ - あああ嵐ちゃああああんっ!!ありがとうございます!!好きです!!(語彙力がなくてすいません💦) (2022年3月13日 22時) (レス) @page10 id: c5e980ac58 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冬梨 | 作成日時:2021年12月25日 8時