明日も君と、恋をしよう

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まったく




ほんとに、単純だ








仕事はさっきと変わらないのに
全然集中できやしない









あと少しで触れる腕の距離とか

チラつく身体の厚みとか









いちいち音を速める鼓動は
文句を言おうとおかまいなしで

勝手に耳を熱くさせる







意識しないようになんて思えば
逆効果なのは当たり前






どうしたって目に入る姿に
思考が奪われかけるから


ひたすら手だけを動かして








全部、


全て洗い落とす









手早く、




綺麗に、




丁寧に









それだけをただ繰り返していれば

意外と集中できちゃって






落ち着いてきた客足も重なり
ひとやま洗い終えてしまう








これを拭いたら、ひと段落


さてと気合いを入れたところで
ふぁぁ、と気の抜け落ちた声







おかげでこっちも気が抜けそう







思わずぐるりと顔を回せば





「えへ」





軽く壁にもたれた平野くんは
悪びれずに肩をすくめる







「もう終わったんだ」



「そ。暇になっちゃった。
. Aちゃんのも手伝うほどないしさー」







めっちゃ暇、とぼやいたあとで
大きく仰け反らせた背中






「ねね、何食べたい？」


「え、今？」


「ううん、ゆうごはん」






唐突に投げ込んできた話題は
あまりに雑な気もするけど





「何食べよっかなーって」





1度そんなことを聞かれちゃえば

お腹の虫がうずくから





「んー…、なんだろ」





拭ったグラスをかちゃりと置いて
薄い記憶を引っ張り出す









たしか、昨日ねぎを買って

豚肉も残ってたような








バイトの終わりが20時頃




なんか作る気も起きないだろうし

ここでこれだけお皿を洗えば
家でやる気でないだろうし








「鍋、かなぁ」







困った時の鍋頼み







「あー、今日寒いしな」


「1番ラクだしね」


「……あれ、Aちゃんてひとり暮らし？」







急に覗き込む怪訝な声に
そうだよ、と言葉を返せば

ぱちりその目が瞬いて





「え、ひとりで鍋って寂しない？」





しゅん、と眉が落っこちる


俺ムリー…なんて言っちゃって
ぷくり突き出す下唇






慣れればそうでもないけどな






そんなことを言い返す間も無く

せや、と呟いたかと思えば





「一緒に食べよ？」





さも名案だと言いたげな声が
また距離を近づかせていく

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