34 ページ34
.
「いらっしゃいませー」
ドアの向こうへ入り込めば
すべてを覆う甘い熱に
ついグルリとうごめくお腹
「やー……、今日も旨そうっすね！」
「当たり前じゃないですかー！あ。よかったらちょっと食べてみます？」
4人しかいない狭い店内で
取り上げられたメロンパンは
トングで器用に分けられて
「どーぞどーぞ、」
そのままひょいと差し出される
「えっ、マジでいんすか？」
「ほんとはね、俺が食いたいだけやから」
すくめた肩に上がる頬は
くしゃり涙袋を引いて
食べちゃいましょ？、なんて
チラリと覗く舌がズルい
すっかり色の抜けたその髪は
紫耀くんの存在自体を
奪って落としたかのようで
「はい。どーぞ」
手渡されたパンの欠片が
指先へかける重みにさえも
やけに疑い深くなって
「ありがとうございます」
たしかに、ちゃんと、目の前に、
紫耀くんは
いるはずなのに
「あっ、メロンパンきらいでした？」
勝手に軋んでは廻る思考が
動く身体を止めてしまう
「や、あの。……美味しそうだなぁって」
「あー！ふふ、ほんまフワッフワですもんね」
ふにゃり細められた瞳も
唇に乗せられた声も
私に向けられているけど
なんか
現実味がなくて
なかなか減らないメロンパン
「うっま！」
「んー！おいし」
「んふふ、ありがとうございますー」
ひとくちが大きすぎる岸くんは
もうすでに食べ終わりそうで
頬っぺたを膨れさせた紫耀くんも
それに迫るほどの勢い
唇の端に残った砂糖を
舌でペロリ拭い取るから
いきなり男の子らしくなって
そんな仕草を見せられると
あれこれ考えあぐねてたことも
バカらしくさえ思えてきて
急に近くなるその存在
「あー。俺さぁ、このメロンパンめっちゃ好きだわ」
「わ、ほんまっすか！」
「あのさ？メロンパンって、意外と好き嫌い分かれるじゃないっすか、」
「っあぁー！あれっすよね、メロンの味がするほうが好き派と、そうじゃない派と」
なんだか盛り上がる2人に
取り残される私と志保さんは
瞬く目をそっと見合わせて
とりあえずちまちま食べ進める
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1504人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ふとん(プロフ) - はるかさん» はるかさん、ありがとうございます！ようやく折り返しと言えるところまできました…最後まで頑張りますので、お付き合いいただければ幸いです！ (2017年9月21日 23時) (
レス) id: 1df4f5ed05 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - ここにきてこんなに切ない展開ってさすがです…続きがすごく気になります！！ (2017年9月20日 2時) (レス) id: 66715550c8 (このIDを非表示/違反報告)
ふとん(プロフ) - つかささん» つかささん、ありがとうございます！最後まで自分の思い描いた世界を表現できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。 (2017年8月31日 9時) (レス) id: 1df4f5ed05 (このIDを非表示/違反報告)
つかさ(プロフ) - この作品を読んでいるとすごく不思議な感覚になります。更新楽しみにしてます。 (2017年8月28日 10時) (レス) id: ad87999c23 (このIDを非表示/違反報告)
りこ - 紫耀ちゃんが、いつ出てくるか楽しみです！ (2016年12月19日 8時) (レス) id: a7ce410caa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ふとん
| 作成日時：2016年12月18日 21時
