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ゆるり伸びてった香りと
ことりカップの立てた音で

スマホを飛ばして覗いた目






「コーヒー?」






ぐでてたスウェットの背が立って

その腰に溜まってた生地が
腿に落ちてくしゃりふやける





ふたつ置かれたカップを見て
遅めな瞬きをしてから

ぺたぺたテーブルに寄る紫耀







「俺のも?」

「うん」

「……ありがと」

「いえいえ」






本調子には遠いカオで
口元はとんがりのクセに



ちゃっかり

カップは両手持ち






「どれ食べる?」

「いいよA食べて」

「3枚とも?」

「3枚とも」







怒ってるんだか、優しいんだか







「じゃあ2枚もらうね」

「2枚でいいの?」





カップを口へと付けたまま
眼だけで頷いてみせれば


左はカップを包むまま
指先がクッキーをいじる





「じゃあこれもらう」





ぽいって食べちゃえばいいのに

シンプルなバターを選んでから
ほんとにいいの?って瞳で

ちらり窺ってくれる紫耀は




やっぱり

優しいんだと思う








まあ、不機嫌気味だけど







残されたチョコチップと
ナッツのクッキーとを吟味して

ひとくちコーヒーを含めば




ぺろり紫耀の拭った唇は

その端にまだちょこっとだけ
粒になったクッキーがいる









さて、どっちから食べよう








「え」

「え?」

「や、」






選んだナッツを手に取れば

まだクッキーをくっ付けたままの
間の抜けたカオに見られて





「先チョコ食べるかと思ってた」

「あー、うん。迷った」

「迷ってたね」






不機嫌くんに対抗して
教えないつもりだったのに





「紫耀、」

「ん?」






もうギブアップ






「クッキー付いてるよ、くち」

「え、」





その親指に擦られて
ぷくり歪んだ唇に

とれた?、って聞かれるから





「まだ」

「んえぇ、」





手のひらごと覆われて
ぺしぺしはたかれてる口元に

堪えきれなくて肩が揺れる






「あのさ、」






仕上げに粉を払う指先と
同時にこっちへと飛ぶ視線



 

「1週間待ってくんない?」

「え?」

「あのサメ」



 

なんの期間か分からないけど

紫耀のご機嫌を崩してまで
サメと寝たいわけじゃないから






「うん、いいよ」






とりあえず

ここは折れとこう






「ありがと」






逸らされたあとの瞳が
カップへとはらり落っこちて

ひと息に飲み干した紫耀は






「んえぇにっが、」






鼻筋にくしゃり

線を寄せた

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作者名:ふとん | 作成日時:2019年3月14日 18時

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