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隣の郁を見る。こんな時怒鳴ってしまうのが彼女の性格だ。
郁はなんとか抑えているみたいだった。
『すみません通してください、取材だったら図書隊の広報へお願いします!』
「逃げるんですか!」
あぁ、耐えられない。
不安、怖い、イライラ…爪噛みたい、けど、だめだ、我慢しなきゃ。
「そもそも図書隊の協力拒否は稲嶺司令の報復だという見解も出ていますが、それについてはどう思われますか!?」
「稲嶺司令は『日野の悪夢』の被害者でもあり、対応に不備があった警察には恨みがあるはずですが!」
「基地司令の公私混同にあなたは従うんですか!?」
そこまで言う…!?
怒りがこみ上げてきて指を口元に近づけようとした刹那、
「郁っ!!」
「Aっ!!」
喧噪を突き抜けるほど鋭く名前を呼ばれて凍るように体が固まった。
その声に苗字ではなく名前を呼ばれたことに驚いて。
振り向きかけると人垣の後ろが崩れ、背中から回された手で左手を包んだ。
その手がそのまま私を抱え込み、「いい子、そのままね」低い声が耳打ちする。
「取材なら図書隊広報でお引き受けします!」
郁を抱え込んだ堂上教官が人垣に頓着なく突っ込んで壁を割っていく。
それに続いて小牧教官も体当たりするように突破していった。
「逃げるんですか!」
私たちのときと同じように詰る声が追いすがるが、通用門をくぐりつつ「こちらの入り口は関係者のみですので!すみませんが!」と取りつくしまもなく後ろ手に門扉を閉め、出入り口を手早く開けた。
小牧教官は無言で私の手を引いて暗い部屋に入り、扉を閉めた。
『あの…』
「ん?」
『…さっき、驚きました。名前で呼ばれたから』
そう言ってみると、下を見つめながらぽつりと答えてくれた。
「仕方ないでしょ、あの状況で苗字叫んだら何に使われるか分からないし」
『あの、小牧教官来てくれてよかった、私もう少しで…』
右手で左手の指を触る。
噛みがちな左手の爪は少し触れるだけで痛む。
「タイミングは悪かったけど間に合ってよかったよ。報道が張り付いてる外に高尾さんがいるって知って慌てて追いかけたんだ」
『すみません…』
「心配だったけど、よかった。高尾さんが壊れちゃうのが一番怖かったから」
そう言って教官は私の手をつかみ、優しく握った。
全部を教官は知っていたということが分かって不意に涙が出てきた。
そんな私を今度は静かに抱きしめ、泣き止むまでそのままでいてくれた。
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アオイ(プロフ) - みさこさん» わあああ!!ありがとうございます!!返信遅くなってすみません、仲良くしてください!! (2020年3月9日 11時) (レス) id: deeb297800 (このIDを非表示/違反報告)
みさこ(プロフ) - 先程フォローさしていただきました。よろしくお願いします。V6大好き(女子)です (2020年3月5日 1時) (レス) id: 96340430ed (このIDを非表示/違反報告)
アオイ(プロフ) - かなとさん» ご指摘ありがとうございます。消したつもりになってました。申し訳ございません。すぐに消させていただきました。 (2019年8月3日 23時) (レス) id: deeb297800 (このIDを非表示/違反報告)
かなと - 編集画面の関連キーワード入力の下をよく読みオリジナルフラグをお外し下さい違反です (2019年8月3日 23時) (レス) id: 9ac913b464 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アオイ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kuroki
作成日時:2019年8月3日 23時