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『はい』
頷いたものの、どう対応していいのかとっさに分からず戸惑った。
……補聴器付けてるってことは少しは聞こえるのかな。
『えっと、これ、』
曖昧に口ごもると教官がまた言い添える。
「普通にしっかり話して。補聴器で拾えない音は唇も読んで読解してるから」
すみません、と思わず彼女に向かって答えたのは妙な斟酌をしてしまったからだ。
『これ、落としましたよ』
心がけてはっきりと喋りながらハンカチを渡すと、彼女は小首を傾げるような会釈で答えた。
そして上着のポケットから携帯電話を出して画面を叩き始め……
って、何だこの超高速!?
私が唖然として見つめる中、ほとんど神業的な速度で彼女は画面を叩き終わり、それを私に向かって見せた。
液晶はメール作成画面で、
《ありがとうございます 気がつかなくてすみません》
『あ、いえ』
私とのやり取りを済ませると彼女はまた携帯を操作し、私に見せたより少し時間がかかったそれは小牧教官に向けられた。
読んだ教官が笑って頷き、
「いいよ、また後でね」
言いつつ両手の親指と人差し指で作ったくの字を胸元で合わせ、それを左右に引き離した。
知らない私でも手話かなと分かる。
彼女は花の咲いたような笑顔で頷き、閲覧室へ去った。
私が教官の仕草を真似ると、少し笑って「もちろんって意味」と教えてくれた。
「何か面白い本教えて欲しいって言ってたから、返事」
『小牧教官って手話出来るんですか』
「簡単な単語くらいかな。彼女、手話はメインで使ってないからね。聞き取りに難があるから人前での会話を避けてるだけで、喋るだけなら普通に喋れるんだ。それに携帯もあるしね」
『あ、すごい速さでしたね。驚きました』
「最近は聴覚障害の人のコミュニケーションツールになってるんだよ。交流会なんかに行くとおじいちゃんおばあちゃんも使いこなしてるって。手話文化を持っていない人には聞き逃さずに言葉のやり取りが出来るから便利なんだろうね」
私には単に便利な道具である携帯だが、そうした人の声の代わりになれるという価値に改めて気付かされる。
すごいな、携帯文化。
と、それはそれとして。
今すごく気になることができてしまった。
『あの、彼女以外に覚えておいた方がいい人っているんですか』
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アオイ(プロフ) - みさこさん» わあああ!!ありがとうございます!!返信遅くなってすみません、仲良くしてください!! (2020年3月9日 11時) (レス) id: deeb297800 (このIDを非表示/違反報告)
みさこ(プロフ) - 先程フォローさしていただきました。よろしくお願いします。V6大好き(女子)です (2020年3月5日 1時) (レス) id: 96340430ed (このIDを非表示/違反報告)
アオイ(プロフ) - かなとさん» ご指摘ありがとうございます。消したつもりになってました。申し訳ございません。すぐに消させていただきました。 (2019年8月3日 23時) (レス) id: deeb297800 (このIDを非表示/違反報告)
かなと - 編集画面の関連キーワード入力の下をよく読みオリジナルフラグをお外し下さい違反です (2019年8月3日 23時) (レス) id: 9ac913b464 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アオイ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kuroki
作成日時:2019年8月3日 23時